見積の加工時間・工数を早く出すには|過去実績から引く工数表の作り方
- ✓工数表は「段取り時間」と「1個あたりの加工時間」を分けて持ち、形状・材質・数量の区分で引けるようにします。
- ✓実績は作業日報と工程票から集め、段取りと加工を分けて書く・図番を書くといった日報の小さな変更から始めます。
- ✓表は受注ごとに実績をためて毎月見直し、半年ごとに区分を整理します。担当者を1人決めて、補正の理由も一緒に残します。
1. 加工時間の見積で毎回悩むのはなぜか
部品加工の見積で一番手が止まるのは、材料費や外注費よりも加工時間の見積もりです。図面を見て、旋盤で何分、マシニングで何分、段取りに何分と頭の中で組み立てていく。この数字はたいていベテランの経験に頼っていて、同じ図面でも人によって、あるいは同じ人でも忙しさによって違う値が出ます。材料費は単価表を見れば決まりますが、加工時間には引く表がないため、毎回ゼロから考えることになります。
- ・見積を書ける人が工場長や一部のベテランに限られ、その人が不在だと見積が止まる
- ・似た部品を前にもやったはずなのに、そのときの時間がどこにも残っていない
- ・見積で出した工数と、実際にかかった工数を比べたことがない
- ・赤字になった仕事があっても、どの工程で読み違えたのか分からない
- ・若手に見積を任せると、慎重すぎて高い値か、楽観的すぎて安い値が出る
こうした悩みの根っこは、見積の数字と現場の実績がつながっていないことにあります。ここで目指すのは、図面を入れれば加工時間が自動で出てくるしくみではありません。「この形で、この材質で、この数量なら、過去は段取りと加工にこれくらいかかった」という実績を、見積のときにすぐ引ける表にまとめることです。表があれば、ベテランは確認と補正に集中でき、若手も同じ出発点から見積を組み立てられます。
2. 工数表の骨組み|段取り時間と1個あたりの時間を分ける
工数表を作るときに最初に決めるのは、時間を「段取り時間」と「1個あたりの加工時間」に分けて持つことです。段取り時間は、治具の取り付け、工具の準備、プログラムの呼び出しや修正、初品の測定など、数量に関係なく1回ごとにかかる時間です。1個あたりの加工時間は、ワークの脱着と切削そのもので、数量に比例して増えます。この2つを混ぜて「この部品は合計で何時間」と記録してしまうと、数量が変わった見積に使えません。
| 項目 | 中身 | 書き方のコツ |
|---|---|---|
| 区分 | 形状・材質・数量の組み合わせ | 次の章で決める区分名をそのまま使う |
| 工程 | 旋盤・マシニング・研削・穴あけなど | 機械ごとではなく工程ごとに1行にする |
| 段取り時間 | 1回の段取りにかかる時間 | 初品測定やプログラム修正も含めるか、社内で決めて統一する |
| 1個あたりの時間 | 脱着と加工にかかる時間 | 数量で掛け算できる形にする |
| 根拠の件数 | 何件の実績から決めた値か | 件数が少ない行は「参考」と分かるようにする |
| 代表の図番 | 値の元になった過去の図番 | 迷ったときに過去の図面と見積を開けるようにする |
| 更新日 | 最後に値を見直した日 | 古い行を見分けるために必ず入れる |
見積のときは「段取り時間+1個あたりの時間×数量」で工程ごとの時間を出し、工程を足し合わせて部品全体の工数にします。工程を機械ごとに分けすぎると、同じ旋盤加工でも機械が違うだけで別の行になり、実績が分散してしまいます。まずは工程ごとに1行とし、機械による差が大きい場合だけ後から分けるほうが、表が育ちやすくなります。
3. 形状・材質・数量で部品を分ける
過去の実績を引けるようにするには、部品をいくつかの区分に分けておく必要があります。図番ごとにしか記録がないと、初めての図番の見積には使えません。「新しい図面だけれど、形はあの区分、材質はこのグループ」と当てはめられる程度の、粗めの区分を作ります。分け方の軸は、形状・材質・数量の3つで足ります。
形状は「どの機械で、どう段取りするか」で分ける
形状の区分は、図面の見た目ではなく、段取りと加工の手間が似ているかどうかで決めます。丸物でも、細長い軸と平たいフランジでは、チャックの仕方も振れの心配も違います。自社でよく受ける部品を思い浮かべて、段取りの方法が同じものを一つの区分にまとめます。
- ・丸物・軸もの(シャフト、ピンなど長さのあるもの)
- ・丸物・円盤もの(フランジ、カラーなど径に対して薄いもの)
- ・角物・ブロック(マシニングで多面加工するもの)
- ・板物(プレートの穴あけ・ポケット加工が中心のもの)
- ・薄物・長物(ひずみや振れに気をつかうもの)
- ・溶接後の加工・構造物(ワークが大きく段取りに時間がかかるもの)
材質は「削りやすさ」で3つほどのグループにする
材質は鋼種ごとに細かく分けず、削りやすさで大きくまとめます。たとえば、アルミや快削鋼のように削りやすいもの、一般構造用の鋼材や機械構造用の炭素鋼のような標準的なもの、ステンレスや焼入れ材のように工具が早く傷み送りを落とすもの、の3グループです。工具の減りや条件の落とし方が似ているかで判断し、迷う材質は現場の加工担当者に聞いて決めます。
数量は「段取りの比重」が変わるところで切る
数量は、段取りと1個あたりを分けて持っていれば計算で対応できます。ただ、数量によって加工のやり方そのものが変わる場合は区分を分けます。試作や一品物では手作業で寸法を追い込み、量産では専用治具を作ってサイクルを詰める、といった違いです。自社で「ここから先は治具を作る」「ここから先はプログラムを詰める」という境目がどこにあるかを現場と話して、試作・小ロット・量産程度の区分にします。
| 分ける軸 | 区分の決め方 | 分けすぎを防ぐコツ |
|---|---|---|
| 形状 | 段取りの方法と使う機械が同じものをまとめる | 自社の受注の大半が入る区分だけ作り、まれな形は「その他」にする |
| 材質 | 削りやすさ(工具の減り・条件の落とし方)でまとめる | 鋼種名ではなくグループ名で表を引く |
| 数量 | 治具を作るか、プログラムを詰めるかの境目で切る | 計算で済む差は区分にせず、やり方が変わるところだけで分ける |
4. 過去の作業実績をどこから集めるか
工数表の値は、見積で出した予定の時間ではなく、実際にかかった時間から作ります。見積の控えをいくら集めても、それは過去の「読み」であって実績ではありません。社内のどこに実績が残っているかを洗い出すところから始めます。
- ・作業日報:誰が、どの仕事に、何時から何時まで取り組んだか
- ・工程票・作業指示書:工程ごとの着手と完了の記録、担当者のサインや押印
- ・機械の稼働記録:加工機の運転時間やプログラムの実行時間が残っている場合
- ・出来高の記録:数量と完了日。1個あたりの時間を割り出すときに使う
- ・見積書の控え:予定工数。実績と並べて、読み違えた工程を探すために使う
多くの工場では、作業日報か工程票に何らかの時間が残っています。ただし「この日は図番いくつの仕事を8時間」のように一日まとめて書かれていたり、段取りと加工が分かれていなかったりして、そのままでは工数表に使えないことがほとんどです。過去の記録は、使えるものだけを拾い出す程度にとどめ、これからの記録の取り方を少し変えるほうが早く表が育ちます。
日報の書き方を3か所だけ変える
現場の負担を増やさないよう、変えるのは最小限にします。図番を必ず書くこと、段取りと加工を分けて時刻を書くこと、段取り替えの待ちや機械トラブルなどの中断を書くこと、の3つです。中断が書いてあれば、表を作るときにその時間を除けます。
- 一日の作業をまとめて「客先名・品名・時間」で書く
- 段取りと加工の時間が混ざっている
- 途中の手待ちや機械トラブルが記録に残らない
- 数量は出荷のときに別の帳票で分かるだけ
- 仕事ごとに図番を書き、工程ごとに1行にする
- 段取りの開始・終了と、加工の開始・終了を分けて書く
- 中断があれば理由と時間を一言書く
- その工程で仕上げた数量を同じ行に書く
5. 集めた実績から表の値を決める手順
実績が集まったら、図番ごとの記録を区分ごとの代表値にまとめていきます。手順は次のとおりです。Excelの表1枚で進められます。
- 01実績を図番・工程ごとに並べる日報や工程票から、図番・工程・段取り時間・加工時間・数量を1行ずつ書き出します。
- 021個あたりの時間を出す加工時間を仕上げた数量で割り、段取り時間とは別の列にします。
- 03区分を付ける図面を見て、形状・材質・数量の区分をそれぞれの行に付けます。迷う図番は現場の担当者に確認します。
- 04外れた実績を除く機械トラブル、材料不良による作り直し、初めての段取りで手間取った回など、普段と違う事情のある行を除きます。
- 05代表値を決める区分ごとに実績を時間の短い順に並べ、真ん中あたりの値を代表値にします。
- 06ベテランが目を通して確定する代表値が感覚とずれていないかを見積担当のベテランが確認し、ずれる理由があれば区分の見直しやメモに残します。
代表値に平均を使わないのは、一度の大きなトラブルで値が大きく引っ張られるからです。並べた真ん中あたりの値を使えば、極端な回に左右されにくくなります。外れた実績を除くときは、消さずに「除外」の印を付けて残します。同じ理由の外れが何度も出るなら、それは例外ではなく、その区分にいつもかかる手間かもしれないからです。
実績の件数が少ない区分は、無理に値を決めず「参考」と分かる印を付けます。件数が少ない値を本番の見積にそのまま使うと、たまたま運が良かった回の時間で見積を出してしまうおそれがあります。参考の行を使うときは、必ずベテランが補正を確認する、という決まりにしておきます。
6. 見積で工数表を引くときの流れと、人が足す補正
見積のときは、図面を見て区分を決め、表から工程ごとの段取り時間と1個あたりの時間を引き、数量を掛けて足し合わせます。ここまでは誰がやっても同じ結果になります。そのうえで、図面に表に収まらない条件があれば、人が補正を足します。補正は見積担当の腕の見せどころですが、何をどれだけ足したかを残しておかないと、次に同じ判断ができません。
- ・公差や面粗さの指示が、その区分のふだんの部品より厳しい
- ・深穴・細い溝・薄肉など、条件を落とさないと削れない部位がある
- ・専用の治具や特殊な工具を新しく用意する必要がある
- ・表面処理や熱処理の前後で、加工を分けて行う必要がある
- ・測定に手間がかかる(三次元測定や全数検査の指示がある)
- ・客先から初めての注文で、図面の読み違いや問い合わせが見込まれる
補正を足したら、見積書の控えか工数表の横の欄に「深穴あり、段取りに上乗せ」のように理由を一言書きます。この補正メモが、次に表を見直すときの材料になります。同じ理由の補正が何度も出てくるなら、その条件を独立した区分にするか、補正の目安を表に書き足します。こうして、ベテランの頭の中にあった判断が少しずつ表に移っていきます。
7. 工数表を更新する頻度と担当の決め方
工数表は一度作って終わりではありません。機械を入れ替えた、工具を変えた、ベテランが退職して若手が段取りをするようになった、といった変化で、実際の時間は変わっていきます。更新されない表は、やがて「あの表の数字は古い」と言われて使われなくなります。更新の頻度と担当を最初に決めておきます。
- 仕事が完了するたび日報・工程票から実績を実績シートに書き足す。見積の工数と並べて差を記録する
- 毎月見積と実績の差が大きかった仕事を見直し、外れ値か、表の値や補正の読みが違ったのかを判断する
- 半年ごと区分ごとの代表値を計算し直す。件数が増えた「参考」の行を本番の値に切り替え、使われない区分をまとめる
- 機械の入れ替え・人の入れ替えのとき影響のある工程の行に印を付け、新しい実績がたまるまでは補正で対応する
担当は1人に決めます。実績の書き足しは事務の方でもできますが、毎月と半年ごとの見直しは、見積を書く人と現場の工程を知っている人が一緒に行います。工場長と見積担当が月に一度、差の大きかった仕事だけを並べて話す時間を取れば足ります。全員で表を直せる状態にすると、誰がいつ値を変えたか分からなくなるので、値を変えられる人は限っておきます。
8. Excelで始めるときのシート構成と次の段階
工数表づくりに特別な道具は要りません。社内にあるExcelで十分に始められます。ただし、実績と工数表を同じシートに混ぜると、どれが元の記録でどれが決めた値なのか分からなくなります。役割ごとにシートを分けておきます。
- ・実績シート:図番・工程・区分・段取り時間・加工時間・数量・除外の印を1行ずつためる
- ・工数表シート:区分と工程ごとの代表値、根拠の件数、代表の図番、更新日
- ・補正メモシート:見積のときに足した補正の理由と内容。見直しのときに読み返す
- ・区分の説明シート:形状・材質・数量の区分の決め方と、迷いやすい図面の例
共有フォルダに置いて複数人が同時に書き込むと、上書きや破損が起きやすくなります。実績の書き足しは担当者がまとめて行い、見積担当は工数表シートを読むだけにする、という分担にしておくと安全です。代表の図番から過去の図面や見積書をすぐ開けるよう、図番の書き方は保存しているファイル名や台帳とそろえておきます。
表が回り始めて実績が増えてくると、日報の転記や区分の付け直しが手間になってきます。その段階になったら、日報の入力を図番と工程にひもづけて実績シートへ自動でためる、図面から似た過去の部品を探して工数の候補を出す、といったしくみ化を考える時期です。国のデジタル化・AI導入補助金(通常枠)は、事務局に登録されたITツールの導入が対象で、2026年度の1次締切は9月29日で過ぎています。2次以降は事務局の発表を待つことになるため、使うかどうかは、自社の表がどこまで育っているかを見てから決めても遅くありません。
最初の1か月でやること
- ・工場長と見積担当で、よく受ける部品を思い浮かべて形状・材質・数量の区分案を作る
- ・作業日報に「図番」「段取りと加工の時刻」「中断」の3か所を足し、目的を現場に説明する
- ・手元に残っている日報・工程票から、使える実績だけを実績シートに書き出す
- ・受注の多い区分から順に代表値を出し、件数の少ない行には「参考」の印を付ける
- ・次の見積から表を引いて出発点にし、足した補正の理由をメモに残す
