生成AIで見積書の下書きを作る手順|単価表・条件の渡し方と人が見る項目
- ✓生成AIには単価表・過去の見積・客先の条件の3つを決まった形で渡し、品目の並べ方や条件の書き写しなど、文章と構成の下書きを任せます。
- ✓客先名・個人情報・社外秘の原価や掛け率はそのまま渡さず、記号に置き換えるか伏せます。社内ルールで決めた範囲だけを入力します。
- ✓生成AIが出した金額は必ず表計算で計算し直し、単価・数量・条件・除外項目・有効期限は提出前に人が1行ずつ確かめます。
1. 生成AIに見積書の下書きを任せると、どこが楽になるか
見積書づくりで時間がかかるのは、計算そのものよりも、その前後の作業です。客先から届いた仕様書やメールを読み、必要な品目を洗い出し、過去の似た見積を探し、単価表から値を拾って並べ、納期や支払条件、含まないものを書き添える。この「読む・探す・並べる・書き写す」の部分は、担当者の経験に頼りがちで、繁忙期には見積の返事が遅れる原因になります。
生成AIは、文章を読んで要点を抜き出すことや、決まった形に並べ直すことが得意です。そこで、単価表・過去の見積・客先の条件をまとめて渡し、「この形式で見積書の下書きをつくって」と頼むと、品目の一覧と条件の文面がそろった状態から仕事を始められます。担当者は白紙から書くのではなく、出てきた下書きを直す側に回ります。
- 客先のメールや仕様書を最初から読み、必要な品目を手で書き出す
- 過去の見積をフォルダから探し、似た案件を開いて見比べる
- 単価表から1行ずつ値を拾って見積の書式に打ち込む
- 納期・支払条件・含まないものを毎回思い出しながら文章にする
- 上司に回してから抜けや書き方の違いを指摘され、直して出し直す
- 客先の条件を生成AIに渡し、品目と条件の洗い出しを下書きさせる
- 似た案件の見積を一緒に渡し、品目の並べ方と書き方をそろえさせる
- 単価は社内の単価表から表計算で引き、金額は表計算で計算する
- 条件の文面は生成AIの下書きを読み、自社の言い回しに直す
- 提出前は決めた確認項目だけを人が見て、抜けを潰してから出す
2. 下書きの材料をそろえる:単価表・過去の見積・客先の条件
生成AIの下書きの出来は、渡す材料の整い方で決まります。材料が散らかったままだと、生成AIはそれらしい品目や単価を勝手に補って、もっともらしい間違いを出してきます。最初に手間をかけるのは、次の3つの材料を「渡せる形」にしておくことです。
単価表は「品名・規格・単位・単価」の4列に絞る
社内の単価表は、仕入値・掛け率・改定履歴・メモ書きが同じシートに混ざっていることがよくあります。生成AIに渡すのは、客先に出す単価だけを並べた表です。品名の書き方がぶれていると、生成AIは同じ品物を別物として扱います。「SUS304 t2.0」と「ステンレス2ミリ」のような書き方の違いは、この機会に社内の正式名にそろえておきます。
過去の見積は「似た案件を2〜3件」選んで渡す
過去の見積は、金額の参考ではなく「書き方の手本」として渡します。品目の並び順、まとめ方(一式にするか明細を出すか)、備考欄の書き方、除外項目の書き方などを、生成AIが真似できるようにするためです。たくさん渡すほど良いわけではなく、今回の案件に近いものを少数に絞ったほうが、下書きのぶれが小さくなります。
客先の条件は、届いた文面から要点を抜き出す
- ・数量・ロット・分納の有無
- ・材質・規格・仕上げ・検査の指定
- ・納期・納入場所・運搬の条件
- ・支払条件と、見積の有効期限の希望
- ・工事の場合は、施工範囲・工期・作業時間帯・搬入経路・既設物の扱い
- ・客先が明記していないが、毎回確認が要る事項(図面の版、支給品の有無など)
客先のメールや仕様書を丸ごと貼り付けても生成AIは読めますが、客先名や担当者名、社内事情が書かれた部分まで一緒に入ってしまいます。次の節の線引きに沿って、渡してよい部分だけを抜き出してから使います。
3. 生成AIに渡してよい情報と、渡してはいけない情報
見積には、客先との取引条件や自社の原価という、外に出してはいけない情報が詰まっています。生成AIのサービスは、契約の種類や設定によって、入力した内容がサービス側の学習に使われるかどうかが変わります。会社として契約した環境を使うのか、個人の無料版を使うのかで、渡してよい範囲は変わります。まず自社がどの環境を使うかを決め、そのうえで下の表のように線を引きます。
| 情報の種類 | 扱い | 渡すときの工夫 |
|---|---|---|
| 品名・規格・数量・単位 | 渡してよい | 社内の正式名にそろえてから渡す |
| 客先に出す単価(定価・標準単価) | 渡してよい | 客先に出す前提の値だけの表にする |
| 納期・支払条件・有効期限などの条件 | 渡してよい | 客先名を外し、条件の文だけを抜き出す |
| 客先名・現場名・担当者名・連絡先 | そのまま渡さない | 「客先A」「現場B」などの記号に置き換える |
| 仕入値・原価・掛け率・利益の見込み | 渡さない | 生成AIには出さず、表計算の中だけで扱う |
| 客先ごとの値引きや特別条件 | 渡さない | 最後に人が表計算で反映する |
| 客先から預かった図面・仕様書の原本 | 社内ルールで判断 | 秘密保持の約束を確認し、必要な部分だけを書き写す |
原価や掛け率を生成AIに渡さない理由は、情報が漏れる心配だけではありません。生成AIは計算を間違えることがあり、原価から売値を出させると、その間違いに気づきにくくなります。売値を決める計算は表計算の中で完結させ、生成AIには「どの品目を、どの順に、どう書くか」だけを任せると、役割の線がはっきりします。
4. 見積書の下書きを組み立てる6つの手順
- 011. 客先の条件を抜き出す届いたメールや仕様書から、数量・仕様・納期・条件を箇条書きにする。客先名は記号に置き換える
- 022. 材料をそろえる単価表(品名・規格・単位・単価)と、似た案件の過去の見積を用意する
- 033. 指示文で形式を決めて渡す出力の列、並び順、備考欄に書く内容を指定して、材料と一緒に生成AIに渡す
- 044. 品目と条件の下書きを受け取る品目の一覧、条件の文面、不明点の一覧を出させる。単価表にない品目は空欄で出させる
- 055. 表計算に移して計算する品目と数量を表計算に貼り、単価は単価表から引いて、金額・小計・消費税を計算する
- 066. 人が確認して仕上げる確認項目に沿って1行ずつ見て、値引きや特別条件を反映し、責任者の承認を経て提出する
この流れでいちばん効くのは手順3の指示文です。毎回その場で書くと、担当者によって頼み方が違い、下書きの形もばらばらになります。一度うまくいった指示文を社内の共有フォルダに置き、全員が同じ文面から始めるようにします。指示文には、次のような内容を入れておくと、下書きが安定します。
- ・役割:「あなたは当社の見積担当です。下に渡す単価表と過去の見積の書き方にならって、見積書の下書きをつくってください」
- ・出力の形:「品名/規格/数量/単位/単価/備考の列の表で出してください」
- ・単価の扱い:「単価は必ず単価表の値をそのまま使ってください。単価表にない品目は単価を空欄にし、備考に『単価表になし』と書いてください」
- ・計算の扱い:「金額と合計の計算はしないでください」
- ・条件の文面:「納期・支払条件・有効期限・含まないものを、過去の見積の備考欄の書き方にならって文章にしてください」
- ・不明点:「客先の条件から読み取れないこと、確認が必要なことを、最後に箇条書きで出してください」
とくに「単価表にない品目は空欄にする」「計算はしない」の2つは外さないでください。生成AIは、指示がないと空いた所を埋めようとし、それらしい単価や合計を作ってしまいます。空欄で出させれば、人が見るべき所が一目で分かります。また「確認が必要なこと」を出させると、客先への問い合わせの文面づくりにもそのまま使えます。
5. 金額は生成AIに任せず、表計算で確かめる
生成AIは文章のしくみで答えを組み立てるため、掛け算や足し算を確実にこなす道具ではありません。行が多くなるほど、桁の取り違えや足し忘れが混じりやすくなります。しかも出てくる数字の見た目は整っているので、ぱっと見では気づけません。見積書の金額は、必ず表計算の数式で出します。
やり方は単純です。見積用の表計算のひな形を1つ用意し、生成AIが出した品名・規格・数量をそこに貼り付けます。単価は、生成AIが書いた値を使わず、社内の単価表から品名で引いてくる数式にしておきます。こうすると、生成AIが単価を写し間違えていても、表計算の側で正しい値に置き換わり、食い違いがあれば並べて見比べられます。
- ・単価は単価表から品名で引く数式にし、手で打ち込まない
- ・金額は「単価×数量」の数式、小計・消費税・合計も数式で出す
- ・端数の処理(切り捨て・四捨五入、どの段階で丸めるか)を、ひな形の中で決めておく
- ・生成AIの下書きの単価と、表計算で引いた単価が食い違う行に色が付くようにしておく
- ・値引きや客先ごとの特別単価は、表計算の別の欄で人が入れ、理由を備考に残す
- ・単価表が改定されたら、ひな形が新しい単価表を参照しているかを確かめる
単価表にない品目が出てきたら、そこは担当者の出番です。外注先への問い合わせや、過去の実績からの判断が必要になるため、生成AIには埋めさせません。表計算のひな形で空欄の行が残っていれば提出できないようにしておくと、うっかり出してしまう事故を防げます。
6. 提出前に人が最後に見る項目
生成AIを使うと下書きは早くできますが、確認の手を抜くと、間違った条件で約束してしまうおそれがあります。見積書は客先が発注を決める根拠になる書類です。確認する項目を決めて紙1枚の表にしておき、担当者と責任者が同じ表で見るようにします。
| 確認する項目 | 見るところ | よくある間違い |
|---|---|---|
| 品目の漏れ・重複 | 客先の条件の箇条書きと、見積の品目を1行ずつ突き合わせる | 付帯作業や運搬が抜ける、同じ品目が2回出る |
| 規格・材質・仕上げ | 図面や仕様書の指定と、見積の規格欄 | 似た規格に置き換わっている、図面の版が古い |
| 数量・単位 | 客先の数量と単位(個・式・m・kg など) | 単位の取り違え、ロットと総数の取り違え |
| 単価 | 表計算で単価表から引いた値になっているか | 生成AIが書いた単価がそのまま残っている |
| 金額・合計・消費税 | 数式で計算されているか、端数処理が社内の決まりどおりか | 手で上書きした金額が残っている |
| 含まないもの・前提条件 | 除外項目、支給品、工期や作業時間の前提 | 過去の見積の条件がそのまま写っている |
| 納期・支払条件・有効期限 | 客先の希望と自社で守れる条件が合っているか | 客先の希望をそのまま約束してしまう |
| 宛名・日付・件名 | 記号に置き換えた客先名を正式名に戻したか | 「客先A」のまま、別の客先名が残っている |
この中で、生成AIを使うようになって新しく増える間違いが2つあります。1つは、手本に渡した過去の見積の条件が、今回の案件にそのまま写ってしまうことです。前の客先との特別な支払条件や、前の現場だけの除外項目が紛れ込んでいないかを見ます。もう1つは、記号に置き換えた客先名や現場名を、正式名に戻し忘れることです。宛名と件名は、最後に必ず目で確かめます。
7. 社内で続けて使うための決めごと
見積の下書きに生成AIを使うやり方は、一部の担当者だけが使っていると、その人が休んだ途端に元の手作業に戻ります。また、各自が好きな環境で使い始めると、客先の情報がどこに入力されたか分からなくなります。続けて使うには、道具より先に、次のような決めごとを文書にしておきます。
- ・使ってよい生成AIの環境(会社で契約したもの、学習に使わない設定にしたものなど)
- ・入力してよい情報と、入力してはいけない情報の一覧(前の節の表を社内向けに直したもの)
- ・共有の指示文と、見積用の表計算のひな形の置き場所
- ・単価表を直す人と、改定したときに知らせる方法
- ・提出前の確認項目の表と、確認した人の記録の残し方
- ・うまくいかなかった下書きの例を集め、指示文を直す担当と時期
始めるときは、品目が多く毎回似た構成になる見積から手を付けると効果が見えやすくなります。部品加工なら材料・加工・表面処理・検査の組み合わせ、建設なら改修工事の定番の工種など、過去の見積の手本が豊富にある分野です。逆に、一品ものの特殊な案件や、客先との交渉で条件が大きく動く案件は、下書きの手直しが多くなるため後回しにします。
次の一歩としては、直近で出した見積を1件選び、今回の手順どおりに生成AIで下書きをつくって、実際に出した見積と見比べてみてください。どの品目が抜けたか、どの条件の書き方が違ったかを書き出すと、自社の指示文で足りない所と、単価表の書き方で直すべき所がはっきりします。
