生成AIが研修後に使われなくなる理由と、社内に定着させる5つのやり方
- ✓研修のあとに使われなくなる原因は、やる気ではなく「使う場面が決まっていない」ことにある
- ✓定着させるには、題材を自社の書類にし、使う業務と手順を研修の中で決めておく
- ✓指示文の置き場所・相談の相手・効果の測り方を用意し、しくみに組み込むと担当が替わっても続く
1. 研修のあと、生成AIが使われなくなるまでの流れ
生成AIの研修を行った直後は、参加した社員の多くが「これは便利だ」と感じます。ところが、数週間から数か月たつと、使っているのは一部の詳しい社員だけになり、ほかの社員は元のやり方に戻ってしまう。こうした話は、業種や会社の大きさを問わずよく耳にします。研修そのものの内容が悪かったわけではなく、研修が終わったあとの職場に、使い続けるための足場がなかったことが原因である場合がほとんどです。
- 01研修の直後便利さを実感し、試しに使ってみる
- 02最初のつまずき自分の仕事でうまくいかず、どう直せばよいか分からない
- 03忙しい時期慣れた元のやり方のほうが早く、使うのを後回しにする
- 04使われなくなる一部の詳しい社員だけが使い、ほかの社員は元に戻る
この流れの中で、分かれ目になるのは「最初のつまずき」です。自分の仕事で試して、うまくいかなかったときに、どう直せばよいかが分からない。聞く相手もいない。そうなると、忙しい時期を迎えたときに、慣れた元のやり方に戻るのは自然なことです。定着させるための手立ては、このつまずきをどう乗り越えさせるかに集中させると効果が出やすくなります。
2. 使われなくなる5つの理由
研修のあとに生成AIが使われなくなる理由は、いくつかの型に分けられます。自社で当てはまるものがどれかを確かめると、手を打つ順番が決まります。多くの場合、1つだけでなく、いくつかの理由が重なっています。
| 理由 | 職場での表れ方 |
|---|---|
| 使う場面が決まっていない | 研修では分かったが、自分のどの仕事に使えばよいか分からない |
| 題材が自社の仕事と離れている | 研修の例文と、実際の書類の形や言葉が違いすぎる |
| うまくいった方法が共有されない | 上手な人の指示文が個人のパソコンに埋もれている |
| 聞く相手がいない | つまずいたときに相談できず、そのまま使うのをやめる |
| 使ってよい範囲が曖昧 | 何を入力してよいか分からず、怖くて使えない |
このうち、会社として最初に手を打つべきなのは「使う場面が決まっていない」と「使ってよい範囲が曖昧」の2つです。この2つは研修の設計と社内ルールで解決でき、社員一人ひとりの工夫に頼らずに済みます。残りの3つは、研修のあとの職場のしくみで補います。
- ・研修の設計で解決する:使う場面が決まっていない、題材が自社の仕事と離れている
- ・社内ルールで解決する:使ってよい範囲が曖昧
- ・研修のあとのしくみで補う:うまくいった方法が共有されない、聞く相手がいない
製造業や建設業には、ほかの業種と比べて定着を難しくする事情もあります。現場の社員はパソコンの前にいる時間が短く、書類の仕事は現場の作業が終わったあとにまとめて片付けることが多い。そのため、研修で覚えた使い方を試す機会そのものが少なくなりがちです。スマートフォンから使える形にする、朝礼や終礼の前後など使う時間帯を決めておくなど、現場の働き方に合わせた工夫を研修の設計に入れておくと、試す機会を確保しやすくなります。
3. やり方1:研修の題材を自社の書類にする
一般的な例文で練習する研修は、分かりやすい反面、職場に戻ってからの距離が大きくなります。製造業なら図面の注記や作業標準書、品質記録。建設業なら安全書類や施工計画書、現場写真の報告。社員が毎日見ている書類を題材にすると、研修の中でつくった指示文や手順が、そのまま翌日の仕事で使える道具として残ります。
- 業種を問わない例文で練習する
- 研修のゴールが「使い方が分かる」になっている
- どの仕事に使うかは参加者に任される
- 自社の書類で練習する
- 研修のゴールが「翌日から使う手順ができる」になっている
- 部署ごとに使う業務が研修の中で決まる
題材の選び方にも目安があります。毎週くり返し発生する書類、人が読んで別の形に書き直している書類、間違えたときに人が気づける書類。この条件を満たす書類を部署ごとに1つずつ選ぶと、研修のあとに使う場面が毎週やってくるため、使うことが習慣になりやすくなります。
- ・製造業の題材の例:図面の変更点の書き出し、作業標準書の下書き、不具合の報告書の整理
- ・建設業の題材の例:安全書類の一覧化、施工計画書の下書き、打合せの記録のまとめ
- ・事務部門の題材の例:注文書や請求書の読み取り、社内の問い合わせへの回答文
4. やり方2:使う業務と手順を研修の中で決める
研修の最後に「では、明日から使ってみてください」で終わると、使う場面の判断は社員に任されます。定着させるには、研修の最後の回で、部署ごとに「どの業務で、どの手順で使うか」を決めて持ち帰ってもらいます。使う業務が決まっていれば、社員は研修で練習したことを、そのまま仕事の手順として続けられます。
- ・部署ごとに、生成AIを使う業務を1つか2つに絞って決める
- ・使う手順を、誰が見ても同じようにできる形で書き残す
- ・手順の中に、人が確かめる箇所と確かめる人を書き込む
- ・決めた業務は、上長も把握して、使うことを仕事として認める
最後の「仕事として認める」は、見落とされがちな点です。生成AIを使うことが、上長から見て「本業の合間の遊び」のように扱われていると、社員は使うことに後ろめたさを感じます。決めた業務では生成AIを使うのが標準の手順である、と上長が言葉にしておくと、使うことが当たり前になります。
使う業務を決めるときは、欲張らないことも欠かせません。部署で使う業務を一度に多く決めると、どれも中途半端なまま忙しい時期を迎え、結局すべてが元に戻ってしまいます。まずは1つの業務で使うことが当たり前になるまで続け、その業務で手順が固まってから、次の業務へ広げます。1つの成功が、次の業務に広げるときの説得材料にもなります。
5. やり方3と4:指示文の置き場所と、相談の相手を用意する
同じ作業でも、指示の出し方によってAIの出力は変わります。研修の中でうまくいった指示文は、個人のパソコンの中にしまわず、部署で共有する置き場所に集めます。「この書類にはこの指示文」という形で並べておけば、研修に参加していない人や、あとから入った社員も、同じ品質の下書きをつくれます。置き場所の手入れをする担当者を部署ごとに1人決めておくと、古い指示文が残ったままになるのを防げます。
| 足場 | 中身 | 担当の例 |
|---|---|---|
| 指示文の置き場所 | 書類ごとに、うまくいった指示文と使い方の注意を並べる | 部署ごとの指示文の手入れ役 |
| 相談の相手 | うまくいかないときに聞ける人と、聞き方を決める | 研修で上達の早かった社員 |
| 困りごとの集め方 | 使っていてつまずいた点を集め、指示文やルールを直す | 推進の担当者 |
| 社内ルール | 入力してよい情報の線引きと、出力の確かめ方 | 推進の担当者と管理部門 |
相談の相手は、詳しさよりも聞きやすさで選びます。研修で上達の早かった社員や、同じ部署の身近な人が向いています。「こういう書類で、こう頼んだら、こうなった」と気軽に聞ける相手がいるだけで、最初のつまずきで使うのをやめてしまう社員は減ります。相談を受ける側の手間も仕事として認め、負担が一人に偏らないように気を配ります。
- ・指示文には、使う書類の名前、使う場面、注意する点を添えて残す
- ・うまくいかなかった例も、どこでずれたかを書いて残す
- ・相談の相手の名前と、聞き方(対面・社内のチャットなど)を周知する
- ・月に一度、困りごとを持ち寄る短い時間を部署でとる
困りごとを持ち寄る時間は、長くとる必要はありません。朝礼のあとの短い時間でも、「今月つまずいたこと」と「うまくいった頼み方」を1つずつ出し合うだけで、指示文の置き場所が少しずつ育っていきます。出てきた困りごとのうち、社内ルールに関わるものは推進の担当者が引き取り、ルールの見直しにつなげます。
6. やり方5:効果を測り、しくみに組み込む
使い続けるかどうかを決めるのは、最終的には「使うと楽になる」という実感です。研修の前に測っておいた作業時間と、研修のあとの作業時間を比べ、部署ごとに共有します。数字で変化が見えると、次にどの業務へ広げるかも決めやすくなります。逆に、時間が減っていない業務は、手順か題材を見直す合図です。
- 研修の前部署ごとに題材の書類を選び、作業にかかっている時間を測る
- 研修の期間自社の書類で練習し、使う業務と手順、指示文の置き場所を決める
- 研修のあと1か月相談の相手と困りごとの集め方を回し、指示文を直していく
- 研修のあと3か月作業時間を比べ、毎回同じ手順で頼んでいる作業をしくみにする候補に選ぶ
毎回同じ手順でAIに頼んでいる作業は、人が指示文を貼り付けて使う段階から、業務のしくみに組み込む段階に進めます。たとえば、注文書を読み取って表にする作業を、書類を置くだけで読み取りが始まるしくみにする。日報の文章を整える作業を、日報のアプリの中で自動で行うようにする。しくみに組み込むと、担当者が替わっても、忙しい時期でも、同じ手順が続きます。
しくみにする業務を選ぶときは、使う頻度と、手順のそろい具合の2つを見ます。毎日のように発生し、誰が頼んでも同じ指示文で済む作業ほど、しくみにしたときの効果が大きくなります。反対に、頼むたびに指示を書き換えている作業は、まだ手順が固まっていない段階です。指示文の置き場所で手順が固まるのを待ってから、しくみにするかどうかを判断します。
7. 定着に向けて経営者と推進の担当者がすること
生成AIの定着は、研修を受けた社員だけの力では進みません。経営者は、生成AIを使うことを会社の方針として言葉にし、使う業務を決めた部署の取り組みを認めます。推進の担当者は、困りごとを集め、指示文とルールを直し、効果を測って次の業務を選びます。役割がはっきりしていると、研修のあとに誰も手を付けないまま時間が過ぎることを防げます。
推進の担当者は、専任である必要はありません。ただし、担当者の本来の仕事の合間に任せきりにすると、困りごとが集まらず、指示文やルールの手入れも止まってしまいます。月に何時間を推進の仕事に充てるかを決め、上長もその時間を仕事として認めておくと、研修のあとの取り組みが途切れにくくなります。
- ・経営者:使うことを方針として示し、使う業務を決めた部署を認める
- ・推進の担当者:困りごとを集め、指示文とルールを直し、効果を測る
- ・部署の上長:決めた業務で使うことを標準の手順として扱う
- ・研修を受けた社員:使い、つまずいた点を推進の担当者に伝える
東海DX伴走室の生成AI研修は、御社の書類を題材にした実践型で、研修の中で使う業務と手順を決めるところまでを行います。料金は150万円からで、研修のあとに見つかった業務を、書類の自動入力や業務システムのしくみに組み込むところまで一緒に進められます。
