東海DX伴走室
生成AI研修

社員がChatGPTを勝手に使うときの止め方|聞き取り・環境・移行期限

公開  約13分で読めます
この記事の要点
  • ✓禁止の通達だけでは、使用が止まるのではなく私物のスマホなど会社から見えない所へ移るため、代わりに使える道とセットで止める
  • ✓まず処分はしないと宣言して実態を聞き取り、誰がどの仕事で何を入力しているかを集め、会社で使う環境と研修の土台にする
  • ✓会社の環境と使い方を配ってから、全員同じ日付で個人利用を終える期限を決め、残った人には会社側の不足を確かめてから対応する

「若手が自分のスマホでChatGPTに納期回答のメールを書かせていたらしい」「事務の担当者が個人のアカウントで議事録をまとめている」。こうした話を耳にして、慌てて「業務での使用禁止」を通達しようとしている経営者や総務の責任者の方は珍しくありません。ただ、通達だけで止めると、使う人が減るのではなく、使っていることが会社から見えなくなるだけになりがちです。この記事では、社員が個人の生成AIを勝手に使っているときに、禁止より先に何をするかを、実態の聞き取り、会社で使える環境の用意、移行の期限の決め方の順に書きます。入力してよい情報の線引きなど社内ルールの細かい中身は別の記事で扱っているため、ここでは「個人利用をどう会社の使い方に移すか」に絞ります。

1. 社員が個人のChatGPTを勝手に使い始める理由

勝手に使っている社員の多くは、会社に隠れて悪いことをしようとしているわけではありません。目の前の仕事を早く終わらせたい、文章を考えるのが苦手、上司に聞きにくい、といった理由から、自分のスマホや自宅で試して便利だと分かり、そのまま仕事にも使い始めています。製造業・建設業の職場では、次のような場面でよく使われています。

  • ・取引先へのお詫びや納期回答のメールの下書き
  • ・作業手順や安全の注意事項を、外国人の作業員向けにやさしい日本語や母国語に直す
  • ・会議のメモを議事録の形に整える
  • ・Excelの関数やマクロの書き方を調べる
  • ・施工計画書や報告書の言い回しを整える
  • ・求人票や社内掲示の文面を考える

どれも本人からすれば「仕事のため」です。しかも、会社が何も言っていない状態では、使ってよいのか悪いのか本人にも分かりません。勝手に使っているというより、会社が決めていないから各自の判断で使っている、と捉えたほうが実態に近いはずです。問題は、使っていることそのものより、何を入力しているかを会社の誰も把握していない点にあります。

注意個人のアカウントで使うと、入力した内容や作った文書の履歴は本人のアカウントに残ります。客先名、図面の寸法、見積金額、作業員の氏名などを入れていても会社からは確認できず、本人が退職した後も会社では消せません。設定によっては、入力内容がサービスの改善に使われることもあります。

2. 禁止の通達だけでは隠れて使われる理由

リスクに気づくと、まず「業務での生成AIの使用を禁止する」と通達したくなります。いったん止める判断自体は間違いではありません。ただ、禁止だけで終えると、多くの場合は使用が止まるのではなく、見えないところに移ります。なぜそうなるのかを、起きることと理由に分けて整理すると次の表のとおりです。

表1 禁止の通達だけで終えたときに起きること
起きること理由結果
自分のスマホで使い続ける会社のパソコンで止めても、私物のスマホと自宅の回線は止められない会社が把握できる範囲から外れる
聞かれても「使っていない」と答える正直に言うと叱られる、評価が下がると感じる実態が分からず、対策の前提が崩れる
作業の速さを落とせない一度早く終わる方法を知ると、元の手作業に戻すのはつらい隠れて使う動機が残り続ける
使い方を相談しなくなる禁止されたものについて上司に聞けない誤った情報や危ない入力をしても誰も気づかない
真面目な人ほど使わなくなる決まりを守る人だけが手作業に戻る社内で作業の速さと負担に差が開く
出典:東海DX伴走室編集部の整理

特に最後の点は見落とされがちです。禁止を守る人は手間のかかる元のやり方に戻り、守らない人は早く仕事を終えます。これが続くと、決まりを守ることが損だという空気が社内に広がります。禁止は「代わりに何を使えばよいか」とセットで出して、はじめて効き目が出ます。

ポイント止めるときは「禁止」ではなく「いつまでに、何に切り替えるか」を伝えます。会社として使う道を用意してから個人利用を閉じる順番にすると、隠れて使う理由がなくなります。

3. 実態を聞き取る――責めずに使い方を集める

対策の第一歩は、誰が、どの仕事で、何を入力しているかを知ることです。ここを飛ばして環境を選ぶと、現場が使いたい場面に合わない道具を入れることになります。聞き取りは処分のための調査ではなく、会社として使える環境を用意するための下調べだと、最初にはっきり宣言してから始めます。

図1 実態の聞き取りの進め方
  1. 01目的を伝える朝礼や部署の会議で「会社で使える環境を用意するために、今の使い方を教えてほしい。正直に答えても処分はしない」と、経営者か部門長の口から伝える
  2. 02簡単な用紙で集める名前の記入は任意にし、使っている道具、使う仕事、入力したことのある情報の種類を選択式で答えてもらう。紙でも入力フォームでもよい
  3. 03よく使う人に話を聞く用紙で「よく使う」と答えた人や詳しそうな若手に、短い時間で具体的な使い方と、困っている点を聞く
  4. 04入力した情報を確かめる客先名、金額、図面、個人の氏名など、外に出ると困る情報を入れたことがあるかを確認し、あれば個別に後始末を相談する
  5. 05結果を部署ごとに整理するどの仕事で使いたいかを一覧にし、会社の環境を選ぶ材料と、社員に教える内容の題材にする
聞き取りの結果は、社員を評価する材料には使わないと決めておきます。

用紙で聞く項目の例

  • ・業務で生成AIを使ったことがあるか(ある・試しただけ・ない)
  • ・使っている道具と、アカウントは個人のものか
  • ・どの仕事で使っているか(メール、議事録、翻訳、計算式、報告書など)
  • ・入力したことのある情報(社内の一般的な文章、客先名、金額、図面、従業員や作業員の個人情報)
  • ・使ってみて役に立った点、困った点
  • ・会社で使えるなら、どの仕事で使いたいか

答えを並べると、使っている人の多くが同じような仕事で使っていることが分かります。メールの下書きと議事録の整理が中心の会社もあれば、外国人の作業員向けの翻訳が中心の会社もあります。この「使いたい仕事」の一覧が、次に用意する環境と、社員に教える内容の土台になります。使っていない人の答えも捨てずに残してください。「使い方が分からない」「怖くて触れない」という声は、後で使い方の説明会を組み立てるときに役立ちます。

注意聞き取りで、過去に客先の情報や個人情報を入力していたことが分かっても、その場で責めないでください。正直に答えた人を叱ると、次からは誰も本当のことを言わなくなります。入力した内容を一緒に確認し、個人アカウントの履歴を消す、取引先への説明が要るかを判断する、といった後始末を会社として進めます。

4. 会社で使える生成AIの環境を用意する

聞き取りで使いたい仕事が見えたら、会社として使ってよい環境を用意します。個人のアカウントとの違いは、料金よりも管理のしかたにあります。会社の環境では、誰がアカウントを持っているかを会社が把握でき、退職時には利用を止められ、入力した内容を学習に使わない設定を会社側でそろえられます。違いを並べると次のようになります。

表2 個人のアカウントと会社で用意した環境の違い
項目個人のアカウント会社で用意した環境
アカウントの管理本人だけが持ち、会社は存在も分からない会社が発行し、誰が使っているか一覧で分かる
退職・異動のとき履歴ごと本人の手元に残る会社が利用を止め、履歴の扱いを決められる
入力内容の扱い本人の設定しだいで学習に使われることがある学習に使わない設定を会社でそろえられる
使ってよい情報本人の判断に任されている会社のルールで線を引ける
使い方の共有各自の工夫が本人の中にとどまるよい使い方を社内で回せる
費用本人の負担か無料の範囲会社が負担する
出典:東海DX伴走室編集部の整理

環境を選ぶときに確かめること

  • ・入力した内容が学習に使われない契約・設定になっているか
  • ・管理者がアカウントの追加・停止をできるか
  • ・普段使っているメールや文書のしくみと同じ会社のアカウントで入れるか
  • ・社内の誰が管理者になるか(総務か、情報の担当者か)
  • ・現場のスマホからも使えるようにするか、事務所のパソコンだけにするか
  • ・聞き取りで出た「使いたい仕事」が、その環境でできるか

全員分を一度にそろえる必要はありません。聞き取りでよく使っていた人と、各部署の代表者から始め、使い方が固まってから広げる方が、費用も混乱も抑えられます。逆に、よく使っていた人に会社の環境が回らないと、その人たちは個人のアカウントに戻ります。最初の配布先は、今いちばん使っている人を優先します。

環境と一緒に「使い方」を渡す

アカウントを配るだけでは、個人利用は止まりません。個人のアカウントで慣れた人にとって、わざわざ会社の環境に移る理由がないからです。会社の環境で何ができるか、どの情報を入れてよいかを、実際の自社の書類を使って見せると、移る理由がはっきりします。たとえば自社の見積の送付状、作業手順書、日報の文面を使ってその場で下書きをつくってみせると、使っていなかった人も「これなら自分の仕事で使える」と分かります。入力してよい情報の線引きは、社内ルールの記事で扱った考え方で決め、短い一枚の紙にして環境と一緒に配ります。

5. 移行の期限を決めて、個人利用を止める

会社の環境と使い方を用意したら、個人のアカウントでの業務利用を終える期限を決めます。期限がないと、慣れた個人のアカウントを使い続ける人が残ります。かといって、環境を配った翌日に禁止すると、使い方が分からない人が困ります。環境の配布から慣れるまでの期間をとり、その後に個人利用を終える日を置くのが基本の形です。

図2 個人利用から会社の環境へ移る流れ(目安)
  1. 1週目経営者から方針を伝え、聞き取りの用紙を配る。この時点ではまだ禁止しない
  2. 2〜3週目聞き取りの結果を整理し、会社で使う環境と、最初に配る人を決める
  3. 1か月目会社の環境を配り、入力してよい情報の一枚紙と使い方の説明会を行う。移行の期限を全員に伝える
  4. 2か月目部署ごとに使い方の相談を受け、よい使い方を社内で共有する。個人アカウントの業務の履歴の整理を各自に頼む
  5. 期限の日個人のアカウントでの業務利用を終える。以後は会社の環境だけを使う
  6. 期限の後使われ方を見直し、配る人数や使える仕事を広げる

期限は、社員全員に同じ日付で伝えます。部署ごとに違うと「うちはまだいい」という空気が生まれます。また、期限の日だけでなく、それまでに会社が何を用意するかも同時に伝えます。「この日までに環境を配る」「この日に説明会をする」と会社側の約束を示すと、社員の側も期限を守る理由ができます。期限を決めるときは、次の点を確かめます。

  • ・会社の環境を配る日より前に期限を置かない
  • ・繁忙期や決算期、工期の山場と重ねない
  • ・説明会を一度は全員が受けられる日程にする
  • ・期限の日までに、個人のアカウントにある業務の履歴を消すよう各自に頼む
  • ・期限を延ばすときは、理由と新しい日付を全員に伝え直す
ポイント期限は「個人のアカウントを持つな」ではなく「業務では会社の環境を使う」と伝えます。私生活での利用まで会社が止めることはできず、止めようとすると反発だけが残ります。線を引くのは、会社の仕事に関わる情報を個人のアカウントに入れないことです。

6. 期限を過ぎても個人利用が残るときの対応

期限を過ぎても、個人のアカウントで仕事を続ける人は出てきます。理由はたいてい、会社の環境では自分の使いたい仕事ができない、現場のスマホから使えない、会社の環境の使い方がまだ分からない、のどれかです。いきなり注意する前に、本人にどの仕事で個人のアカウントを使っているかを聞き、会社の環境で同じことができるようにします。足りない機能や配布の漏れが原因なら、それは会社側の課題です。移行がうまくいくと、社員の動きは次のように変わります。

図3 移行の前後で変わる社員の動き
導入前
  • 自分のスマホで、客先へのメールの下書きをつくる
  • 入力してよい情報が分からず、本人の判断で客先名や金額を入れる
  • 便利な使い方を見つけても、周りに言わない
  • 退職すると、作った文書と履歴が本人の手元に残る
  • 困ったときに誰にも相談できない
導入後
  • 会社の環境で、同じ下書きをつくる
  • 一枚紙を見て、入れてよい情報だけを入れる
  • よい使い方を部署の中で見せ合う
  • 退職時に会社が利用を止め、履歴の扱いを決める
  • 管理者や詳しい社員に使い方を聞ける

それでも会社の仕事の情報を個人のアカウントに入れ続ける人がいる場合は、就業規則や情報の取り扱いの決まりに沿って対応します。ここで初めて、規則による注意や指導の段階に入ります。順番を逆にして、環境も使い方も用意しないまま処分から入ると、聞き取りで正直に話してくれた人の信頼を失います。注意の前に「会社が用意すべきものはそろっていたか」を確かめる習慣をつけておくと、現場の納得を得やすくなります。

7. 経営者・責任者が今週から始めること

ここまでの流れを最初の一歩に落とすと、次のとおりです。大がかりな準備は要りません。

  • ・経営者か部門長が「処分はしない。会社で使える環境を用意するために教えてほしい」と朝礼で伝える
  • ・聞き取りの用紙を一枚つくり、名前の記入を任意にして配る
  • ・総務か情報の担当者から、会社の環境の管理者を一人決める
  • ・よく使っている社員を二、三人選び、使いたい仕事を詳しく聞く
  • ・入力してよい情報の線引きを、社内ルールの考え方に沿って一枚紙にまとめ始める
  • ・会社の環境を配る日と、個人利用を終える期限の案を決める

社員が個人のChatGPTを勝手に使っていたという事実は、裏を返せば、社内に生成AIで仕事を早くしたい人がいるということです。その人たちの使い方を会社の財産として集め、全員が安全に使える形に移せば、隠れた利用はなくなり、使っていなかった人も追いつけます。止めることそのものではなく、会社の使い方に切り替えることを目的に進めてください。

8. よくあるご質問

Q
個人のアカウントで入力した内容は、後から消せますか。
A
本人のアカウントの設定から履歴を消すことはできますが、会社が代わりに操作することはできません。移行の期限に合わせて、業務の内容を含む履歴を各自で消すよう頼みます。聞き取りで客先の情報などの入力が分かった場合は、内容を一緒に確認し、取引先への説明が要るかを会社として判断します。
Q
無料の範囲で使わせるのでは駄目ですか。
A
無料の範囲でも、アカウントが個人のものである限り、会社が把握も停止もできない点は変わりません。費用をかけるかどうかより、会社がアカウントを管理でき、入力内容を学習に使わない設定をそろえられるかで判断します。
Q
現場の職人や外国人の作業員にも使わせるべきですか。
A
聞き取りで使いたい仕事が出てくれば対象に入れます。作業手順の翻訳ややさしい日本語への書き換えは、現場で使う場面が多い仕事です。最初は事務所の代表者から始め、使い方が固まってから現場に広げると混乱が少なくなります。
Q
社員向けの使い方の研修に助成金は使えますか。
A
厚生労働省の人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)は、DXなどに伴う業務に直結した研修が対象です。2026年8月3日以降に出す計画届から、職種を問わない共通の内容の研修は対象外になりました。計画届は研修開始の6か月前から1か月前までに出す必要があり、制度は2026年度末までの時限措置です。申請は社会保険労務士に相談すると進めやすくなります。
編集部
この記事を書いた人
東海DX伴走室編集部
東海4県の製造業・建設業のDXを支援しています。制度の内容は、公開日時点の公的機関の資料をもとにしています。
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