見積の回答が遅いと言われたら|依頼の受付台帳と担当・期限の見える化
- ✓見積の回答が遅れる主な原因は作業の遅さより、依頼が担当者のメール・FAXトレー・机の上で止まり、誰も気づかない時間にあります。
- ✓受付番号・担当者・状態・回答期限を1行にまとめた受付台帳をつくり、「誰が今どれを持っているか」を全員が見られるようにします。
- ✓回答期限は依頼の種類ごとに社内の目安を決め、受付当日に一次返信を送ります。Excelの共有ファイル1つから始め、毎朝の確認で回します。
1. 見積の回答が遅いのは、依頼の居場所が見えないから
お客様から「見積の回答が遅い」と言われたとき、多くの会社はまず担当者の手の速さを疑います。けれども、遅れた依頼を一つずつ追いかけてみると、図面の拾い出しや単価の確認そのものより、依頼が誰にも気づかれずに止まっていた時間のほうが長いことがよくあります。営業のメール受信箱に届いたまま、FAXが事務所のトレーに重なったまま、電話のメモが机の端に貼られたまま。担当者本人は「あとでやる」と覚えているつもりでも、急ぎの仕事が入れば後回しになり、気づいたときには依頼から何日も過ぎています。
もう一つ困るのは、上司も周りも「今どの見積が、誰の手元で、どこまで進んでいるか」を答えられないことです。お客様から催促の電話が入っても、受けた人は担当者に聞くまで分からず、担当者が外出していれば折り返しになります。この「分からない時間」と「折り返しの待ち時間」が重なって、遅い会社という印象ができあがります。
- ・担当者が出張や休みの間、その人宛てのメールの見積依頼に誰も手を付けていない
- ・FAXの依頼に宛先の担当者名がなく、誰の仕事か決まらないまま数日たつ
- ・図面が足りず先方に問い合わせたが、返事が来ないまま依頼そのものを忘れる
- ・仕入先や外注先に見積を頼んだあと、その回答を待っていることを誰も覚えていない
- ・上長の確認待ちで止まっているが、上長は確認を頼まれたことに気づいていない
2. 見積依頼が溜まる場所と、そこで起きていること
見える化の最初の仕事は、自社で見積依頼がどこから入り、どこに溜まるのかを洗い出すことです。製造業なら図番付きの図面がメールやFAXで届き、建設業なら現場説明や打合せの場で口頭の依頼を受けることも多いはずです。入口ごとに止まり方が違うので、打ち手も入口ごとに決めます。
| 溜まる場所 | 起きていること | 見える化の打ち手 |
|---|---|---|
| 担当者個人のメール受信箱 | 本人が休むと誰も気づかない。返信したかどうかも外から分からない | 見積依頼用の共通アドレスを用意するか、受信した人がその日のうちに台帳へ1行書く |
| FAXの受信トレー | 紙が重なり、宛先のない依頼が放置される | 受けた人がその場で受付番号を紙に書き、台帳に登録してから担当へ渡す |
| 電話・口頭の依頼 | 品名や数量があいまいなまま、メモが机に残る | 電話受付用の聞き取りメモの書式を決め、聞く項目をそろえる |
| 現場・打合せで受けた依頼 | 営業や工事担当が持ち帰ったまま事務所に共有されない | 帰社した日のうちに台帳へ登録するルールにする |
| 図面待ち・仕様待ち | お客様の返事を待つ間に依頼そのものを忘れる | 台帳に「先方待ち」の状態をつくり、次に催促する日を書く |
表を見ると分かるとおり、どの入口でも共通する対策は「届いたら、まず台帳に1行書く」ことです。見積を作り始めるのは後でもかまいません。依頼があるという事実だけを、届いたその日のうちに全員が見られる場所へ移す。これが見える化の出発点になります。
3. 見積依頼の受付台帳に入れる項目
受付台帳は、見積依頼1件につき1行の一覧表です。見積書そのものではなく、「どの依頼が、いつ届き、誰が持ち、どこまで進み、いつまでに返すか」を並べる管理表と考えてください。項目は次の程度で足ります。
| 項目 | 書き方の例 | 入れる理由 |
|---|---|---|
| 受付番号 | 年月と連番(例:2611-015) | 電話やメールで依頼を指すときの共通の呼び名になる |
| 受付日 | 依頼が届いた日 | 経過日数を数える起点になる |
| 客先名・先方担当者 | 会社名と担当者名 | 確認や催促の連絡先がすぐ分かる |
| 件名・品名 | 図番、品名、工事名 | 過去の見積と結び付けて探せる |
| 依頼の経路 | メール・FAX・電話・訪問 | 原本の置き場所をたどれる |
| 担当者 | 今その見積を持っている人を1名 | 誰に聞けばよいかがはっきりする |
| 状態 | 受付・拾い出し中・単価確認中・社内確認中・先方待ち・送付済み | どこで止まっているかが分かる |
| 回答期限 | 社内で決めた期限と、お客様の希望日 | 優先順位をつけられる |
| 送付日・結果 | 送った日と、受注・失注・保留 | 月ごとの振り返りに使う |
受付番号は、見積書のファイル名や保存フォルダ名の頭にも付けておくと効果が上がります。台帳の行と見積書のファイルが同じ番号でつながるので、催促の電話を受けた人が番号で台帳を引き、そのまま見積書の下書きを開けます。紙のFAXにも同じ番号を手書きしておけば、原本を探す時間も減ります。番号は「年月+連番」のように、受けた人が迷わず振れる単純な形にしてください。
4. 「誰が今どれを持っているか」を一目で分かるようにする
台帳を作っても、状態の言葉が人によってばらばらだと、一覧を見ても進み具合がつかめません。「対応中」「検討中」「作業中」が混ざると、止まっているのか動いているのか区別できないからです。そこで、見積が受付から送付まで通る段階をあらかじめ決め、状態の欄にはその言葉しか入れないようにします。
- 01受付依頼が届き、受付番号を振って台帳に登録した段階。担当者はまだ決まっていない
- 02担当決め課長や事務の責任者が担当者を1名決め、回答期限を書き込む
- 03拾い出し中図面や仕様書から数量・加工内容・工種を拾っている段階
- 04単価確認中材料単価や外注先・仕入先の見積を確認している段階。外注先に依頼した日も書く
- 05社内確認中上長が金額と条件を確認している段階。確認者の名前を書く
- 06送付済みお客様へ送った段階。送付日を記録し、のちに受注・失注・保留を書く
担当者の欄には、必ず1名だけを書きます。「営業部」「工務課」のように部署名を書いたり、二人の名前を並べたりすると、お互いが相手が進めていると思い込み、結局誰も手を付けないことが起きます。途中で別の人に渡すときは、担当者の名前を書き換えるだけで済むので、引き継ぎの記録にもなります。
- ・状態ごとに行の色を変える(先方待ちは灰色、社内確認中は黄色など)
- ・担当者ごとに、今持っている件数を数える欄を表の上に置く
- ・受付日からの経過日数を自動で出し、回答期限を過ぎた行は赤くする
- ・毎朝、責任者が台帳を開き、期限が近い行と赤い行だけを声に出して確認する
- ・送付済みになった行は並べ替えで下に回し、手持ちの依頼だけが上に並ぶようにする
5. 回答期限の決め方と、お客様への伝え方
「できるだけ早く」は期限ではありません。期限がない依頼は、期限のある仕事に押されて必ず後回しになります。とはいえ、すべての見積に同じ期限を付けるのも無理があります。過去と同じ品の再見積と、新しい図面からの見積では、かかる手間がまったく違うからです。そこで、依頼の種類ごとに社内の目安を決め、担当決めのときに台帳の回答期限へ書き込みます。下の表は決め方の一例です。日数は自社の実情に合わせて決めてください。
| 依頼の種類 | 社内の回答期限の目安(例) | 考え方 |
|---|---|---|
| 過去と同じ品・同じ仕様の再見積 | 受付の翌営業日 | 過去の見積を引き出し、数量と単価を見直すだけで済む |
| 既存品の数量違い・小さな仕様変更 | 受付から3営業日 | 変更点の確認と単価の見直しが中心になる |
| 新しい図面からの見積 | 受付から5営業日 | 拾い出しと加工方法・工法の検討が必要になる |
| 外注先・仕入先の見積が要るもの | 相手の回答日から2営業日 | 自社で決められない部分を受付当日に先に依頼する |
お客様に希望日がある場合は、社内の目安と希望日の早いほうを回答期限にします。希望日に間に合わないと分かったら、その時点で相談します。また、どの依頼でも受付当日のうちに「受け取りました」という一次返信を送ります。依頼した側にとって一番不安なのは、届いているのかどうか分からない状態です。一次返信があるだけで、催促の電話はかなり減ります。
- ・受付番号(次からの問い合わせで使ってもらう)
- ・担当者の名前と連絡先
- ・回答予定日
- ・図面や数量など、足りない情報があればその内容と、いつまでにほしいか
6. Excelや共有ファイルで始める手順
受付台帳は、新しいシステムを入れなくても、社内の共有フォルダに置いたExcelファイル1つで始められます。最初から完璧な形を目指すより、まず1か月動かしてみて、足りない項目や使いにくい点を直していくほうが定着します。進め方の目安は次のとおりです。
- 1週目今手元にある見積依頼を、担当者全員から聞き取って台帳に書き出す。入口(メール・FAX・電話・訪問)も確認する
- 2週目状態の言葉と回答期限の目安を決め、台帳の書式を固める。受付番号の振り方と、誰が登録するかを決める
- 3〜4週目新しく届く依頼をすべて台帳に登録して回す。毎朝の確認を始め、一次返信の文面をそろえる
- 2か月目送付済み・失注の行を振り返り、遅れた依頼がどの状態で止まっていたかを確認して、期限や担当の決め方を直す
Excelで作るときの設定
- ・表全体を「テーブル」に変えておくと、行を足したときに書式や計算式が自動で引き継がれ、並べ替えや絞り込みも簡単になる
- ・「状態」と「担当者」の欄は入力規則でプルダウンにし、決めた言葉と名前しか入らないようにする
- ・経過日数の欄には「今日の日付-受付日」の計算式を入れ、開くたびに自動で数え直されるようにする
- ・条件付き書式で、回答期限の前日になった行を黄色、期限を過ぎた行を赤にする
- ・台帳のファイルは共有フォルダに1つだけ置き、個人のパソコンへのコピーや「台帳_最新版」のような複製を作らない
- ・複数人が同時に書き込むと上書きや破損が起きやすいので、登録する人を絞るか、同時編集に対応した共有のしかたを選ぶ
すでに社内でグループウェアやクラウドの表計算、業務用チャットなどを使っているなら、その中で一覧表を作ってもかまいません。外出先の営業や現場の担当者がスマホから状態を書き換えられると、事務所に戻るまで更新が止まることがなくなります。どの道具を使う場合も、決めることは同じです。受付番号、担当者1名、決まった状態の言葉、回答期限。この4つがそろっていれば、道具を後から替えても中身はそのまま移せます。
7. 台帳を止めずに回すための運用ルール
台帳づくりで一番多い失敗は、作ったものの数週間で更新されなくなることです。原因はたいてい、登録する人と確認する人が決まっていないことにあります。台帳が動き出したときの仕事の変わり方を、導入前と後で比べると次のようになります。
- 依頼は担当者個人のメールや机の上にあり、本人しか把握していない
- 催促の電話を受けた人は、担当者に聞くまで進み具合が分からない
- 担当者が休むと、その人宛ての依頼は誰も手を付けない
- 外注先や仕入先の回答待ちを忘れ、気づいたら日がたっている
- どの依頼がなぜ遅れたのか、後から振り返る材料がない
- 届いた依頼はその日のうちに受付番号付きで台帳に載る
- 電話を受けた人が受付番号で台帳を引き、その場で状態と回答予定日を答えられる
- 担当者が休んでも、責任者が手持ちの依頼を見て別の人に振り替えられる
- 先方待ち・単価確認中の行に次の催促日があり、毎朝の確認で拾える
- 送付日と結果が残り、遅れた依頼がどの段階で止まったかを月ごとに見返せる
- ・登録は「依頼を最初に受けた人」が行う。担当者に渡してから書くのではなく、受けた時点で書く
- ・担当決めと回答期限の記入は、課長や事務の責任者など1人が受け持つ
- ・状態の書き換えは担当者本人が、段階が変わったときにその場で行う
- ・毎朝の確認は短く済ませ、期限が近い行・赤い行・先方待ちの行だけを見る
- ・月に1回、送付済みと失注の行を見返し、遅れた依頼の止まった段階を確かめる
月ごとの見返しを続けると、遅れの原因が少しずつ見えてきます。拾い出し中で止まる依頼が多ければ図面からの数量拾いに、単価確認中で止まるなら単価表の更新や外注先とのやり取りに、社内確認中なら上長の確認のしかたに手を入れる余地があります。台帳は回答を速くする道具であると同時に、見積業務のどこを改善すればよいかを教えてくれる記録にもなります。まずは今週、担当者全員の手元にある見積依頼を書き出すところから始めてください。
