生成AIの社内ルールのつくり方|入力してよい情報の線引きと運用
- ✓社内ルールの中心は「入力してよい情報・伏せてから入力する情報・入力しない情報」の3つの線引き
- ✓会社として使うサービスと設定を先に決める。個人の無料サービスで業務の情報を扱わない
- ✓ルールは1枚にまとめ、研修で実際の書類を使って判断を練習すると現場に定着する
1. 生成AIの社内ルールが先に必要な理由
生成AIは、パソコンやスマートフォンがあれば誰でもすぐに使い始められます。この手軽さが便利な反面、会社として何も決めていないうちに、社員が個人の判断で使い始めてしまうという状況を生みます。取引先の名前が入った見積書や、顧客から預かった図面、社員の個人情報を、個人で登録した無料のサービスに入力してしまう。本人に悪気はなくても、会社としては情報の管理ができていない状態です。
一方で、禁止するだけでは問題は解決しません。便利さを知った社員は、禁止されると隠れて使うようになり、かえって会社から見えないところで情報が扱われることになります。社内ルールの目的は、使わせないことではなく、安心して使える範囲をはっきりさせることです。線引きが明確であれば、社員は迷わずに使え、会社も何がどこで扱われているかを把握できます。
- 社員が個人の判断で、個人のサービスを使う
- 何を入力してよいか分からず、使う人と使わない人に分かれる
- AIの出力を誰も確かめないまま社外に出る
- 会社として契約したサービスを、決まった設定で使う
- 入力してよい情報がはっきりしていて、迷わず使える
- 出力を確かめる人と、確かめる箇所が決まっている
2. 社内ルールで決める5つのこと
社内ルールで決めることは、大きく分けて5つです。どのサービスを使うか、何を入力してよいか、出力をどう扱うか、困ったときに誰に聞くか、ルールをいつ見直すか。この5つが決まっていれば、細かい場面ごとの判断は、ルールに照らして社員が自分で行えます。反対に、場面ごとの細かい決まりを積み上げたルールは、分厚くなるほど読まれなくなります。
| 決めること | 中身の例 |
|---|---|
| 使うサービスと設定 | 会社として契約するサービス、入力した内容が学習に使われない設定、アカウントの管理者 |
| 入力してよい情報 | 入力してよい・伏せてから入力する・入力しない、の3つの区分と例 |
| 出力の扱い | 社外に出す前に確かめる人、確かめる箇所、下書きであることの表示 |
| 相談の窓口 | 判断に迷ったときに聞く担当者、うっかり入力してしまったときの連絡先 |
| 見直しの時期 | ルールを見直す時期と、見直しを決める担当者 |
このうち、社員が毎日の仕事で迷うのは「入力してよい情報」と「出力の扱い」の2つです。残りの3つは会社として一度決めてしまえば、社員が日々判断する場面はほとんどありません。ルールを説明するときも、この2つに時間をかけると、現場で使える知識として残ります。
3. 入力してよい情報の線引きのつくり方
線引きは、情報を3つの区分に分けてつくります。そのまま入力してよい情報、名前や番号を伏せてから入力する情報、入力しない情報です。区分を決めるときは、抽象的な言葉だけでなく、自社の書類の名前で例を挙げることが欠かせません。「機密情報は入力しない」と書いても、社員には何が機密情報なのかが分からないからです。
| 区分 | 製造業の例 | 建設業の例 |
|---|---|---|
| そのまま入力してよい | 社内の書式、一般的な加工の手順、公開されているカタログの内容 | 社内の書式、一般的な作業手順、公開されている基準 |
| 伏せてから入力する | 顧客名・品番・図面番号(記号に置き換える) | 発注者名・工事名・現場の住所(記号に置き換える) |
| 入力しない | 顧客から預かった図面そのもの、単価や原価、社員の個人情報 | 作業員の健康状態、契約金額、発注者から預かった秘密の資料 |
区分は、使うサービスの契約と設定によって変わります。会社として契約し、入力した内容が学習に使われない設定になっているサービスなら、「伏せてから入力する」に入る情報の範囲を広げられることもあります。逆に、個人向けの無料のサービスでは、業務の情報はすべて入力しない区分に入れるのが安全です。
- ・取引先との契約で、第三者への提供や社外への持ち出しが制限されていないかを確かめる
- ・個人情報は、使う目的と扱う範囲を社内の決まりと照らし合わせる
- ・迷う情報は「入力しない」に入れ、相談の窓口で個別に判断する
4. 会社として使うサービスの決め方
線引きの前提になるのが、会社として使うサービスです。社員が思い思いのサービスを使っている状態では、入力した情報がどこでどう扱われているかを会社が把握できません。使うサービスを1つか2つに決め、会社としてアカウントを発行し、管理者が設定を確かめられる形にしておくと、線引きのルールも運用しやすくなります。
- 01使い道を決める文書の下書き・要約・読み取りなど、何に使うかを部署ごとに挙げる
- 02条件を確かめる入力した内容が学習に使われない設定か、利用規約と契約の内容を確かめる
- 03アカウントを配る会社としてアカウントを発行し、管理者を決める
- 04個人利用をやめる業務では、会社のアカウント以外を使わないことを周知する
サービスを選ぶときは、機能の多さより、管理のしやすさを重く見ます。誰がアカウントを持っているか、退職した人のアカウントを止められるか、設定を会社としてそろえられるか。この3つが確かめられないサービスは、便利でも業務には向きません。現場でスマートフォンから使う場合も、会社のアカウントでログインする形にそろえます。
5. AIの出力をどう扱うかも決めておく
入力の線引きと同じくらい大事なのが、出力の扱いです。生成AIは、分からないところも自然な文章で埋めてしまうことがあります。数字や日付、固有名詞の誤り、事実と違う説明が、それらしい文章の中に紛れ込むのです。社内ルールには、AIの出力を社外に出す前に誰が確かめるか、何を確かめるかを書いておきます。
- ・AIの出力は下書きとして扱い、社外に出す前に必ず人が読む
- ・数字・日付・名前・型番は、元の書類と突き合わせる
- ・顧客への回答や約束を含む文書は、上長が確かめてから出す
- ・安全や品質の判断は、AIの出力を根拠にしない
確かめる人を決めるときは、書類の種類ごとに「ふだんその書類を承認している人」をそのまま充てるのが自然です。AIを使ったからといって、確認の手順を新しくつくる必要はありません。これまでの承認の流れの中に、「AIの下書きかどうか」を確かめるひと手間を加えるだけで済みます。
6. 取引先や協力会社とのやり取りで気をつけること
製造業や建設業では、自社の中だけで仕事が完結することはほとんどありません。取引先から図面や仕様書を預かり、協力会社に作業を頼み、書類を行き来させながら仕事が進みます。社内ルールを決めるときは、この社外とのやり取りの中で生成AIをどう扱うかも考えておく必要があります。取引先によっては、預けた資料を生成AIで扱うことについて、独自の決まりを設けている場合があるからです。
- ・取引先との契約や取り決めに、生成AIの扱いについての定めがないかを確かめる
- ・取引先から生成AIの使い方を聞かれたときに答えられるよう、自社のルールを説明できる形にしておく
- ・協力会社に書類づくりを頼むときも、預ける情報の範囲を自社のルールに合わせる
取引先から「御社では生成AIをどう扱っていますか」と聞かれる場面も増えていくと考えられます。そのときに、使うサービス、入力しない情報、出力を確かめる手順を短く説明できれば、情報をきちんと管理している会社だという安心材料になります。社内ルールは、社員のための決まりであると同時に、取引先への説明の材料にもなります。
7. 部署ごとに補う決まりと、ルールが崩れる原因
会社全体のルールは1枚に収めますが、部署によっては補う決まりが必要になります。営業なら見積や顧客への回答の扱い、設計や生産技術なら図面と仕様書の扱い、総務や人事なら社員の個人情報の扱いです。部署ごとの決まりは、全体のルールの下に短く足す形にし、全体のルールと食い違わないようにします。部署ごとに別々のルールをつくると、異動した社員が迷う原因になります。
| 部署 | 補う決まりの例 |
|---|---|
| 営業 | 見積の単価や値引きの条件は入力しない。顧客への回答は上長が確かめてから出す |
| 設計・生産技術 | 顧客から預かった図面は入力しない。自社の図面も番号を伏せて扱う |
| 現場・施工管理 | 作業員の個人情報は入力しない。発注者名と現場の住所は記号に置き換える |
| 総務・人事 | 社員の評価や健康に関する情報は入力しない。応募者の書類も扱わない |
ルールは、つくった直後よりも、しばらくたってから崩れ始めます。原因として多いのは、ルールが実際の仕事に合っていないこと、迷ったときに聞く相手がいないこと、そしてルールを守っても誰にも気づかれないことです。とくに「聞く相手がいない」状態では、社員は自分の判断で使うか、使うのをやめるかのどちらかを選ぶことになり、どちらもルールをつくった目的から外れてしまいます。
- ・仕事に合わない決まりは、相談の窓口に集まった声をもとに見直す
- ・相談の窓口は、名前と連絡の方法まで書き、聞きやすい人を充てる
- ・ルールに沿ってうまく使えた例を、社内で共有して見える形にする
- ・新しく入った社員には、入社時の説明でルールを伝える
8. 1枚にまとめて、研修で定着させる
ルールは細かく作り込むより、1枚の紙にまとめて全員が守れる形にするほうが続きます。5つの決めごとを1枚に収め、入力の線引きには自社の書類の名前で例を載せます。細かい判断が必要な場面は、相談の窓口に集めて、よくある質問として後から足していけば十分です。
- 1か月目の前半部署ごとに使い道を聞き取り、会社として使うサービスを決める
- 1か月目の後半入力の線引きと出力の扱いを決め、1枚のルールにまとめる
- 2か月目研修の最初の回でルールを説明し、実際の書類で判断を練習する
- 3か月目以降相談の窓口に集まった質問を、よくある質問としてルールに足す
紙のルールを配るだけでは、現場で迷ったときに思い出せません。研修で自社の見積書や日報、安全書類を使い、「この書類のこの部分は入力してよいか」を一緒に判断する練習をしておくと、ルールが知識ではなく判断の癖として身につきます。見直しは、サービスの設定や社内の使い方が変わったときと、少なくとも年に一度の時期を決めて行います。
東海DX伴走室の生成AI研修では、最初の回で社内ルールづくりを一緒に行い、御社の書類を題材に使い方の練習を重ねます。料金は150万円からで、助成金を使える場合は社会保険労務士と連携して準備を進めます。
