見積の自動化は製造業でどこまで?ベテラン頼みを抜け出す方法
- 公式情報の確認日
- ✓見積がベテラン頼みになるのは、過去の見積と判断の理由が、その人の頭と手元のファイルにしか残っていないから
- ✓過去の見積を品物の特徴で探せるようにし、似た見積を下書きにするところまでは自動にできる
- ✓値引きや納期の約束など、取引先との関係で決まる判断は人に残し、その理由も一緒に記録していく
1. 見積がベテラン頼みになる理由
部品の加工や板金、組立などを請け負う製造業では、取引先から図面や仕様が届くたびに見積を出します。材料費、加工の時間、外注の費用、段取りの手間を積み上げて金額を決める作業は、同じ品物が二度と来ないことも多く、決まった計算式だけでは済みません。そのため、見積は長く勤めたベテランの担当者にしかできない、という会社が少なくありません。ベテランの担当者が忙しい時期や休んでいる日は見積が止まり、返事が遅れているうちに、ほかの会社に注文を取られてしまうこともあります。
- ・過去の見積が担当者の手元のExcelやファイルにばらばらに残っていて、ほかの人が探せない
- ・金額の決め方の理由が書き残されておらず、同じ見積を出せるのはつくった本人だけ
- ・材料の値上がりや加工の時間の変化を、ベテランが頭の中で補っている
- ・若手が見積を覚える機会が少なく、ベテランの退職が近づくと引き継ぎが間に合わない
ここで見落としやすいのは、ベテランが見積をできる理由の多くが、特別な計算の才能ではなく「似た品物を過去にいくらで出したか覚えている」ことにある、という点です。過去の見積を探せるようにし、判断の理由を書き残していけば、ベテランの頭の中にあったものの多くを、社内で使える形に移せます。
2. ベテランの頭の中にある判断を分けてみる
ベテランの見積を横で見ていると、1つの金額の中に、性質の違う判断がいくつも入っていることがわかります。材料費のように計算で出せるもの、過去の似た品物から当たりを付けるもの、取引先との関係で決めるもの。これらを分けて考えると、しくみに任せられる部分と、人に残す部分が見えてきます。分けるときは、ベテランに実際の見積を1件ずつ説明してもらい、どこで何を考えて金額を決めたかを聞き取っていくと、頭の中の判断を言葉にしやすくなります。
| 判断 | ベテランがしていること | しくみにするには |
|---|---|---|
| 材料費 | 材質と大きさから重さを出し、今の仕入れ値を掛ける | 材質ごとの仕入れ値の表と計算式を持たせる |
| 加工の時間 | 形や穴の数、精度から、機械ごとの時間を見積もる | 過去の似た品物の時間と、実際にかかった時間を並べる |
| 段取りと数量 | ロットの大きさで、1個あたりの段取りの費用を割り振る | 数量ごとの割り振り方を決めておく |
| 外注の費用 | めっきや熱処理など、外注先ごとの相場を覚えている | 外注先ごとの過去の請求を探せるようにする |
| 取引先との関係 | 付き合いの長さや今後の注文を考えて、値引きを決める | しくみでは決めず、人が決めて理由を残す |
表の上の3つは、計算の決まりと過去のデータがあれば、しくみで下書きをつくれる部分です。外注の費用も、過去の請求を探せれば当たりが付けられます。いちばん下の取引先との関係は、数字だけでは決められない判断で、ここは人に残します。大事なのは、人が決めた部分についても、なぜその金額にしたかを一言残していくことです。理由が残っていれば、次に同じ取引先から似た注文が来たとき、ほかの担当者も同じ考え方で見積を出せます。
3. 過去の見積を「探せる」形にためる
見積の自動化の土台になるのは、過去の見積を、品物の特徴で探せる形にためておくことです。多くの会社では、見積はExcelのファイルやPDFで、取引先ごと、年ごとのフォルダに保存されています。ファイル名や取引先の名前では探せても、「ステンレスで、穴が多くて、数量が百個くらいの品物」といった探し方はできません。
- 01ファイルを集める担当者ごとに散らばった見積のファイルを1か所に集める
- 02項目を読み取る品名・材質・数量・金額・取引先などをAIで読み取る
- 03特徴を付ける加工の種類や大きさなど、探すときに使う特徴を付ける
- 04結果を足す受注できたか、実際にかかった時間はどうだったかを足す
過去のファイルは書式がばらばらなことが多いため、読み取りには生成AIを組み込んだ読み取りが向いています。すべての過去の見積を一度に取り込む必要はなく、よく注文が来る取引先や、よく出る品物の見積から取り込んでいけば、早い段階から使い始められます。見積を出したあとに受注できたかどうか、実際に加工にかかった時間はどうだったかを足していくと、ためたデータの価値はさらに上がります。取り込むときに付ける特徴は、多すぎると入れる手間が増えて続きません。材質、大きさ、主な加工の種類、数量といった、探すときに本当に使う特徴に絞って始めます。
4. 似た品物の見積を引き出して、下書きにする
過去の見積が探せるようになったら、新しい引き合いが来たときに、似た品物の見積を自動で並べ、それをもとに下書きをつくる形にします。担当者は、並んだ過去の見積と今回の違いを見比べ、材料の値上がりや数量の違いを直して金額を決めます。ゼロから積み上げるのではなく、似た見積を直す作業に変わるため、ベテランでなくても見積を出しやすくなります。
- 引き合いが来るたびに、ベテランが記憶を頼りに過去のファイルを探す
- 材料費や加工の時間をゼロから積み上げる
- 金額の理由は本人の頭の中にだけある
- 似た品物の過去の見積が、特徴の近い順に並ぶ
- 過去の見積をもとにした下書きを、今回の条件に合わせて直す
- 直した理由が見積と一緒に残り、次の人が読める
下書きをベテランが確かめる形にすれば、若手が見積をつくり、ベテランは確かめて直すだけ、という分担もとれます。ベテランが直した箇所と理由が残っていくことで、若手にとっては見積の考え方を学ぶ教材にもなります。似た見積を探すときの「似ている」の決め方も、会社によって違います。材質と大きさを重く見る会社もあれば、加工の種類や精度を重く見る会社もあります。どの特徴で探すと使える見積が並ぶかは、ベテランに実際に使ってもらいながら調整していきます。
5. 自動にできるところと、人が決めるところ
見積の自動化で迷いやすいのが、どこまでをしくみに任せるかです。すべてを自動にしようとすると、例外の多い品物で誤った金額が出て、かえって確かめる手間が増えます。任せる範囲を先に決めておくと、しくみを信頼して使えるようになります。分担の線は、品物の種類や会社の体制によって変わるため、次の表は考え始めるときの目安です。
| 作業 | しくみに任せる | 人が決める |
|---|---|---|
| 図面や仕様からの読み取り | 品名・材質・数量・寸法などを読み取る | 読み取れない指示や特記事項を確かめる |
| 過去の見積の検索 | 特徴の近い見積を並べる | どの見積を元にするかを選ぶ |
| 材料費の計算 | 材質と大きさから計算する | 仕入れ値の変わり目を反映する |
| 加工の時間 | 過去の実績から候補を出す | 難しい形や初めての加工を見積もる |
| 最終の金額 | 下書きの金額を出す | 値引きや納期を含めて決め、理由を残す |
初めて扱う材質や、過去に似た品物がない引き合いは、しくみが自信を持って下書きをつくれない場面です。そうした引き合いには印を付け、ベテランに回す流れにしておけば、しくみが苦手なところで誤った金額が出るのを防げます。反対に、繰り返し来る品物や、寸法だけが違う品物は、しくみの下書きがそのまま使えることが多い部分です。どの品物がどちらに当たるかは、過去の見積をためてみると見えてきます。任せる範囲は最初に決めたままにせず、下書きの出来を見ながら少しずつ広げていきます。
6. 見積の依頼を一覧にして、返事の遅れを防ぐ
見積の金額を決める作業と並んで手間になっているのが、見積の依頼そのものの管理です。メール、FAX、電話、営業の担当者が持ち帰った図面と、依頼の入り口がばらばらだと、誰がどの依頼を抱えていて、いつまでに返事をするのかが見えません。ベテランの担当者の机に依頼がたまり、気づいたときには取引先の締め切りを過ぎていた、ということも起きます。
| 情報 | 使い道 |
|---|---|
| 依頼の日付と返事の締め切り | 締め切りが近い依頼を上に並べる |
| 取引先と品物の概要 | 似た過去の見積を探す手がかりにする |
| 担当者 | 誰が抱えているかを一覧で見る |
| 状態(受付・作成中・確認待ち・提出済み) | どこで止まっているかを見る |
| 結果(受注・失注)と理由 | 見積の見返しに使う |
依頼が一覧になっていれば、締め切りの近い依頼や、確認待ちのまま止まっている依頼にすぐ気づけます。ベテランの担当者に依頼が偏っているときは、似た見積が過去にある依頼を若手に回し、ベテランは初めての品物に集中する、といった割り振りもしやすくなります。依頼の段階で取引先と品物の概要が入っていれば、そのまま似た過去の見積を探すところへつなげられます。
7. 見積と実績の差を見返して、精度を上げる
見積を出して受注したあと、実際にかかった材料費や加工の時間が見積とどれだけ違ったかを見返すと、見積の精度は上がっていきます。これまでベテランが経験として身に付けてきたことを、データで回す形です。生産管理や日報で実際の時間を記録している会社なら、その記録と見積をつなぐだけで見返しができるようになります。
- ・見積より時間がかかった品物:加工の時間の見込みを直す
- ・見積より材料費がかかった品物:歩留まりや仕入れ値の見込みを直す
- ・受注できなかった見積:金額か納期か、断られた理由を残す
- ・受注できた見積:次に似た品物が来たときの元にする
見返しは、毎回すべての品物で行う必要はありません。金額の大きい品物や、よく来る品物から始め、月に一度まとめて見るだけでも、見積と実際の差の傾向が見えてきます。差が大きかった品物は、ベテランと若手が一緒に理由を話し合う場にすると、見積の考え方を引き継ぐ機会にもなります。見返した結果は、材料費の表や加工の時間の見込みに反映し、次の下書きから使われるようにします。
8. 進め方と、使える補助金
見積の自動化は、過去の見積をためるところから始めて、下書き、見返しの順に広げていくのが確実です。最初からすべての品物を扱おうとせず、引き合いの多い品物の種類に絞って始めます。
- 1段階目よく出る品物の過去の見積を集め、特徴で探せる形にためる
- 2段階目新しい引き合いに、似た過去の見積を並べて出す
- 3段階目材料費の計算と、過去の見積をもとにした下書きを自動にする
- 4段階目受注後の実績とつなぎ、見積との差を見返す
| 制度 | 向いている場合 | 補助の額と補助率 |
|---|---|---|
| デジタル化・AI導入補助金(通常枠) | 事務局に登録された既製のツールを使う | 5万〜450万円・1/2以内 |
| 中小企業省力化投資補助金(一般型) | 自社の品物と見積の流れに合わせてつくる | 従業員数により750万〜8,000万円・中小企業は1/2 |
どちらの制度も、交付の決定より前に契約や発注をしたものは対象になりません。公募の時期から逆算して計画を立てる必要があります。東海DX伴走室では、過去の見積の取り込みから、下書きのしくみづくり、使い始めてからの手直しまでを、ベテランの担当者の話を聞きながら一緒に進めています。
