東海DX伴走室
補助金・助成金

人材開発支援助成金は社労士に頼む?任せる作業と自社でやる作業の分け方

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この記事の要点
  • ✓人材開発支援助成金の書類を報酬を受けて代わりに作成・提出できるのは社会保険労務士。ただし研修の中身と受講者を決めるのは会社です。
  • ✓社労士には計画届・支給申請の作成と提出、期限の管理を任せ、自社は研修内容・受講者・日程・出欠や支払いの記録を受け持ちます。
  • ✓計画届は研修開始の6か月前から1か月前まで、支給申請は研修終了の翌日から2か月以内。社労士に渡す資料を早めにそろえるほど期限に間に合います。

1. 人材開発支援助成金の申請で社労士が担う役割

人材開発支援助成金は、研修の前に出す「計画届」と、研修の後に出す「支給申請」の二つの手続きを通ってはじめて受け取れる助成金です。書類は労働局に出すもので、就業規則や雇用契約、出勤簿、賃金台帳といった労務の記録と突き合わせて審査されます。このため、申請を担う専門家は社会保険労務士(社労士)です。報酬を受けて会社の代わりに助成金の書類を作成・提出できるのは社労士で、研修会社やコンサルタントが手続きを代行することはできません。

ただし、社労士に頼めば会社は何もしなくてよい、というわけではありません。どの研修を、誰に、いつ受けさせるかを決めるのは会社です。社労士は「会社が決めた内容を、制度の要件に合う書類に落とし込み、期限までに出す」役割で、研修の中身や受講者を代わりに決める立場ではありません。この線引きがあいまいなまま進めると、計画届の直前になって「研修の時間数がまだ決まっていない」「受講者の名前が出せない」となり、提出期限に間に合わなくなります。

ポイント社労士に任せるのは「書類と手続きと期限の管理」、自社でやるのは「研修の中身・受講者・日程・研修中の記録」。この分け方を最初の打ち合わせで決めておくと、やり取りの往復が減り、期限の取りこぼしも防げます。

2. 制度のおさらい:社労士と最初に確認する条件と期限

分担を決める前に、DXに伴う研修で使われる「事業展開等リスキリング支援コース」の条件を、社長・工場長・総務の間で共有しておきます。社労士との最初の打ち合わせでは、次の表の項目を一つずつ確かめると話が早く進みます。

表1 事業展開等リスキリング支援コースの主な条件(中小企業)
項目内容
研修の経費75%(大企業は60%)
研修中の賃金1人1時間あたり1,000円(大企業は500円)
主な要件会社の外で行う研修(OFF-JT)で、合計10時間以上
計画届研修開始の6か月前から1か月前までに提出
支給申請研修終了の翌日から2か月以内
受講の回数1人あたり1年度に3回まで(そのうちeラーニングは1回まで)
制度の期限2026年度末までの時限措置
出典:厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」

経費の助成には、1人1研修あたりの上限があります。上限は研修の時間数で区分が変わるため、研修の時間割を決める段階で、どの区分に入るかを確かめておきます。時間数は会社が研修会社と決めるもので、社労士はその時間数をもとに書類を作ります。

図1 経費の上限(中小企業・1人1研修あたり)
10〜100時間未満
30万円
100〜200時間未満
40万円
200時間以上
50万円
eラーニング
15万円
※時間数は会社の外で行う研修(OFF-JT)の合計です。
出典:厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」
注意2026年8月3日以降に出す計画届から、職務に間接的に必要な内容や、接遇・マナーなど職種を問わない共通の内容の研修は、DXに関するものでも対象外になりました。研修の中身が対象になるかどうかは、会社がカリキュラムの案をつくった段階で社労士に見てもらってください。

3. 社労士に任せる作業、自社でやる作業の分け方

申請の流れを作業ごとに分けると、担当ははっきり二つに分かれます。研修の中身と社内の記録に関わることは会社、制度の要件に照らして書類にすることは社労士です。労働局からの問い合わせのように両方が関わる作業もあるため、誰が窓口になるかまで決めておきます。

表2 申請の作業ごとの担当の分け方
作業担当理由・注意
研修の目的と内容を決める自社どの業務に直結するかを説明できるのは会社だけ
受講者を選ぶ自社研修の内容と本人の職務の関係を説明できる人を選ぶ
研修会社・講師を選び、日程を決める自社計画届の期限から逆算して研修開始日を置く
研修が対象になるかの確認社労士(自社が内容を説明)改正後の対象外の基準に当てはまらないかを見てもらう
社内の書類(就業規則・雇用契約など)の確認社労士不足があれば整える手順を教わる
計画届の作成と提出社労士期限の管理も含めて任せる
出勤簿・賃金台帳などの写しを用意する自社社労士が書類と突き合わせる材料になる
研修中の出欠・受講時間の記録自社支給申請の根拠になる
研修費の支払いと証拠の保管自社振込の控えや領収書を残す
支給申請の作成と提出社労士期限の管理も含めて任せる
労働局からの問い合わせへの対応社労士と自社手続きの質問は社労士、研修内容の質問は会社が答える
出典:東海DX伴走室編集部の整理

自社でしか決められないこと

このコースで対象になるのは、DXなど事業の変化に伴って新しく必要になる知識・技能を身につける研修で、しかも職務に直接関係するものです。たとえば「受注の入力を見直すために、事務担当が生成AIで注文書の内容を整理する方法を学ぶ」「工事部の担当者が施工計画書の下書きをつくる手順を学ぶ」のように、業務と研修の内容が一対一でつながっている必要があります。この「つながり」を言葉にできるのは、現場の業務を知っている会社だけです。社労士は書類の形を整えることはできても、御社の業務のどこが変わるかを代わりに書くことはできません。

社労士に任せたほうがよいこと

一方で、計画届と支給申請の様式の書き方、添付する書類の組み合わせ、就業規則や雇用契約の内容が要件に合っているかの確認は、日頃から労務の書類を扱う社労士の領分です。制度は改正が多く、2026年8月の改正のように、同じDXの研修でも計画届を出す日によって扱いが変わることがあります。最新の取り扱いを追い、期限を管理してもらう役割は、社労士に任せたほうが確実です。

4. 計画届までの段取り:自社で決めてから社労士に渡すもの

計画届は、研修開始の6か月前から1か月前までに出します。遅れると対象になりません。社労士が書類を作るには、研修の中身・時間数・受講者・日程が決まっている必要があるため、会社側の段取りが遅れると、社労士がどれだけ急いでも間に合いません。次の順番で進めると、社労士に渡す時点で材料がそろいます。

図2 計画届を出すまでの流れと担当
  1. 01研修の目的を決める(自社)どの部署のどの業務を、どう変えるための研修かを一文で書く。社長と現場の責任者で合意しておく
  2. 02研修の中身と時間数を決める(自社)研修会社とカリキュラムの案をつくる。会社の外で行う研修(OFF-JT)で合計10時間以上か、上限の区分はどこかを確かめる
  3. 03受講者を選ぶ(自社)研修の内容と本人の職務の関係を、一人ずつ説明できるかで選ぶ。今年度の受講回数も確認する
  4. 04社労士に相談する(自社と社労士)研修が対象になるか、社内の書類に不足がないかを見てもらう。分担と連絡の窓口を決める
  5. 05計画届を作成・提出する(社労士)研修開始の6か月前から1か月前までに提出。控えを会社でも保管する
  6. 06研修を始める(自社)計画届どおりの日程・内容・受講者で実施する。変更が出たら、すぐ社労士に連絡する
受講者や日程が変わる場合の手続きは、変更が分かった時点で社労士に確認してください。

社労士との最初の打ち合わせには、次の資料を持っていくと、その場で対象になるかの見通しと、足りない書類が分かります。全部そろっていなくてもかまいませんが、研修の時間割の案と受講者の候補は必ず用意します。

  • ・研修の目的を書いたメモ(どの業務がどう変わるか)
  • ・研修会社のカリキュラムの案(科目ごとの時間数が分かる時間割)
  • ・研修会社の見積書
  • ・受講者の候補の名簿(氏名・所属・担当している業務)
  • ・就業規則と、受講者の雇用契約書(労働条件通知書)
  • ・出勤簿・賃金台帳の様式(研修中の時間をどう記録するかの相談に使う)
  • ・会社の外で研修を行う場所の情報
図3 研修開始日から逆算した手続きの目安
  1. 研修開始の6か月前計画届を出せる期間の始まり。研修の目的と受講者の候補を決め始め、社労士に声をかける
  2. 計画届の準備期間カリキュラムと日程を固め、社労士が書類を作成する。社内の書類の不足を整える
  3. 研修開始の1か月前計画届の提出期限。これを過ぎると対象にならない
  4. 研修期間出欠と受講時間を毎回記録し、研修費の支払いの証拠を保管する
  5. 研修終了の翌日から2か月以内支給申請の期限。社労士が会社の記録をもとに書類を作り、提出する
出典:厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」
注意制度は2026年度末までの時限措置です。これから計画する場合は、計画届の期限に間に合い、かつ年度内に研修を終えられる日程になっているかを、社労士との最初の打ち合わせで確かめてください。

5. 研修中から支給申請まで:自社が残すものと社労士が見るもの

研修が始まると、社労士の出番はいったん少なくなり、会社の記録づくりが中心になります。支給申請は研修終了の翌日から2か月以内で、社労士はこの期間に、会社が残した記録をもとに書類を作ります。記録が抜けていると、社労士でも埋めることはできません。研修の当日に、誰が何を記録するかを決めておきます。

  • ・受講者ごとの出欠と、開始・終了の時刻(遅刻・早退も含めて)
  • ・研修の日の出勤簿の記録(研修時間を勤務としてどう扱ったか)
  • ・研修の日を含む月の賃金台帳
  • ・研修費の請求書・振込の控え・領収書
  • ・研修で使った資料や、実施した内容が分かる記録
  • ・計画届から変わった点があれば、その内容と日付

研修中の記録は、総務・事務の責任者が受け持つのが現実的です。研修の担当(工場長や工事部長)と記録の担当を分けておくと、研修の進行に気を取られて出欠を取り忘れる、といったことが起きにくくなります。社労士には、研修の初回が終わった時点で記録の様式を一度見てもらうと、足りない項目に早く気づけます。

図4 分担を決めずに頼んだ場合と、分担を決めて頼んだ場合
導入前
  • 研修会社と社労士に任せきりで、社内に申請の担当がいない
  • 受講者を研修の直前に決め、計画届の準備が期限ぎりぎりになる
  • 研修の内容と業務の関係を聞かれても、誰も答えられない
  • 出欠や受講時間をその場で記録せず、終了後に思い出して書く
  • 支給申請の時期になってから、振込の控えや賃金台帳を探す
導入後
  • 総務の責任者を社内の窓口に決め、社労士との連絡を一本にする
  • 研修の中身・受講者・日程を会社で決めてから社労士に渡す
  • 研修の目的を一文で書き、社労士の質問に工場長・工事部長が答える
  • 研修の当日に、記録の担当が出欠と時刻を残す
  • 支払いの証拠と賃金台帳を研修ごとにまとめ、終了後すぐ社労士に渡す
注意社労士に頼んでも、申請する主体は会社です。書類に書かれた研修内容や受講時間が実際と違えば、責任を負うのは会社になります。社労士が作った書類は、提出前に会社の担当者が中身を確かめてください。

6. 社労士に頼む前に確かめておくこと

顧問の社労士がいる会社は、まず顧問に相談するのが近道です。日頃の労務の書類を把握しているため、就業規則や賃金台帳の確認が早く済みます。ただし、社労士事務所によっては助成金の申請を扱っていないこともあります。顧問がいない場合や、顧問が助成金を扱っていない場合は、人材開発支援助成金の申請に慣れた社労士を探します。依頼する前に、次の点を確かめておくと、あとで話が食い違いません。

  • ・人材開発支援助成金、特に事業展開等リスキリング支援コースの申請を扱った経験があるか
  • ・2026年8月3日以降の計画届での対象外の基準を踏まえて、研修の中身を見てもらえるか
  • ・計画届だけか、支給申請と労働局からの問い合わせ対応まで含むか(依頼の範囲)
  • ・報酬の決め方(着手時に払うもの、支給が決まったときに払うものなど)と、不支給になった場合の扱い。契約書で確認する
  • ・期限の管理を誰がどう行い、会社にいつ何を求めるか(資料の提出日の約束)
  • ・会社側で用意する記録の様式を示してもらえるか

報酬の額は事務所によって決め方が違います。見積を取るときは金額だけで比べず、依頼の範囲が同じかどうかをそろえて比べてください。計画届だけの依頼と、支給申請や問い合わせ対応まで含む依頼とでは、会社に残る作業がまったく違います。

7. 自社だけで申請するか、社労士に頼むかの判断

助成金の申請は、会社が自分で行うこともできます。社労士に頼む義務があるわけではありません。ただ、計画届の期限を一度でも過ぎれば対象にならず、やり直しもききません。総務の人数が限られる製造業・建設業の会社で、通常の業務と並行して制度の改正を追い、様式をそろえるのは負担が大きくなります。次のように整理すると、自社の状況でどちらが合うかを判断しやすくなります。

表3 自社申請と社労士への依頼の向き・不向き
会社の状況向いている進め方理由
総務に労務の書類と助成金の経験者がいる自社申請も選べる様式と期限の管理を社内で回せる
総務・経理を少人数で兼務している社労士に依頼期限の管理と改正の確認を任せられる
就業規則や雇用契約を長く見直していない社労士に依頼要件に合うかの確認と整備が先に必要になる
研修を複数回・複数部署で行う社労士に依頼受講回数の管理や書類の量が増える
顧問社労士が助成金を扱っている顧問に依頼社内の記録を把握していて確認が早い
出典:東海DX伴走室編集部の整理

どちらを選ぶ場合でも、研修の目的・中身・受講者を決めるのは会社で、研修中の記録を残すのも会社です。社労士に頼むかどうかで変わるのは、書類の作成と提出、期限の管理を誰が持つかだけです。次の一歩としては、社内で研修の目的を一文で書き、受講者の候補を挙げたうえで、顧問社労士か助成金に慣れた社労士に、研修開始日から逆算した日程の相談を入れてください。

8. よくあるご質問

Q
研修会社に助成金の申請を代わりにやってもらえますか。
A
報酬を受けて会社の代わりに助成金の書類を作成・提出できるのは社会保険労務士です。研修会社が受け持てるのは、カリキュラムや時間割、見積書など研修の内容が分かる資料を用意することまでで、申請の手続きは会社自身か社労士が行います。
Q
社労士に頼めば、必ず助成金を受け取れますか。
A
受け取れるとは限りません。計画届や支給申請の期限に遅れた場合、研修が対象外の内容だった場合、出欠や受講時間の記録が足りない場合は支給されません。社労士は書類を整えますが、根拠になる記録を残すのは会社です。
Q
顧問社労士が助成金を扱っていない場合はどうすればよいですか。
A
人材開発支援助成金の申請に慣れた別の社労士に、助成金の手続きだけを依頼する方法があります。その場合は、顧問社労士と情報をどう共有するか(就業規則や賃金台帳の写しの受け渡しなど)を、会社が間に入って決めておくと進めやすくなります。
Q
生成AIの研修は対象になりますか。
A
業務に直結し、DXに伴って新しく必要になる知識・技能を身につける内容であれば対象になり得ます。ただし、2026年8月3日以降に出す計画届から、職務に間接的に必要な内容や、職種を問わない共通の内容は、DXに関するものでも対象外です。カリキュラムの案ができた段階で社労士に確認してください。
編集部
この記事を書いた人
東海DX伴走室編集部
東海4県の製造業・建設業のDXを支援しています。制度の内容は、公開日時点の公的機関の資料をもとにしています。
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