研修中の賃金も助成される?1人1時間1,000円の計算手順と注意点
- 公式情報の確認日
- ✓中小企業は研修の経費75%とは別に、研修中の賃金が1人1時間1,000円助成される。目安は「受講人数×対象時間×1,000円」で出す
- ✓経費の助成には研修時間に応じた1人あたりの上限がある。費用はいったん自社で払い、支給申請は研修終了の翌日から2か月以内
- ✓2026年8月3日以降の計画届から、職務に間接的な内容やマナーなど共通の内容は対象外。制度は2026年度末までの時限措置
社員に研修を受けさせると、研修費だけでなく「その間、現場や事務所の仕事が止まる」という負担が出ます。工場なら段取り替えの担当が抜け、建設会社なら現場代理人が一日事務所を空けます。その時間にも給料は払っています。厚生労働省の人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)には、この研修中の賃金の一部を助成するしくみがあります。この記事では、賃金助成の額の出し方、研修経費の助成と合わせた全体像、対象になる研修の条件を、申請の前に社内で確認しておきたい順に整理します。
1. 研修中の賃金助成とはどんな上乗せか
事業展開等リスキリング支援コースは、DXなど事業の変化に伴って新しい分野で必要になる知識・技能を身につける研修を支援する制度です。助成は「研修の経費」と「研修中の賃金」の2本立てになっています。経費は中小企業で75%(大企業は60%)、研修中の賃金は中小企業で1人1時間あたり1,000円(大企業は500円)です。研修費の割合ばかりが話題になりがちですが、受講する人数が多く、時間が長い研修ほど、賃金の側の助成も積み上がっていきます。
考え方としては、「社員を現場から外している間の人件費を、時間単位で一部埋める」ものです。社員の時給が1,000円より高くても低くても、助成される単価は1人1時間1,000円で決まっています。そのため、研修を誰に何時間受けさせるかを決めた時点で、賃金助成のおおよその目安が見えてきます。
2. 賃金助成の目安は「人数×時間×1,000円」で出す
計算そのものは単純で、受講した人ごとの対象時間を足し上げた「延べ時間」に1,000円を掛けます。たとえば5人が20時間ずつ受ける計画なら、延べ時間は5×20で100時間です。これに1,000円を掛けたものが賃金助成の目安になります。ただし、計画どおりの時間がそのまま認められるとは限りません。実際に受講した時間で数えるので、欠席や途中退出があればその分は延べ時間から外れます。手順に分けると次のようになります。
- 01受講者を決める部署・氏名を一覧にします。雇用保険に入っている従業員かどうかもこの時点で確認します。
- 021人ごとの研修時間を数えるカリキュラムの時間割から、講義・演習など研修本体の時間を拾います。休憩や移動の時間は分けて書いておきます。
- 03延べ時間を出す受講者ごとの時間を足し上げます。全員同じ時間なら「人数×時間」で出ます。
- 041,000円を掛けて目安にする出た額はあくまで目安です。欠席や途中退出があれば実績に合わせて減ります。
- 05経費の助成と分けて管理する研修費(経費の75%)と賃金助成は別の枠です。資金繰りの表でも別の行に分けておきます。
| 時間の種類 | 社内での扱い方 | 確認しておきたいこと |
|---|---|---|
| 講義・演習の時間 | 時間割どおりに数える | カリキュラムに書いた時間と実施時間が合っているか |
| 休憩・昼食 | 研修時間とは別に書く | 研修時間に含めずに数える前提で計画する |
| 会場までの移動 | 研修時間とは別に書く | 賃金助成の対象に数えられるかは事前に確認する |
| 欠席・遅刻・早退 | 受講者ごとに実績で引く | 出席の記録を誰がどう残すか決めておく |
| 勤務時間外の受講 | 別の欄に分けて書く | 賃金の支払いと助成の扱いを社労士に確認する |
現場の多い会社ほど、計画どおりに全員がそろうとは限りません。急な客先対応や機械トラブル、天候による工程の組み替えで、受講予定の人が抜けることはよくあります。延べ時間の目安は「全員が全時間出た場合」の上限として見ておき、実際の助成はそれより少なくなりうる前提で資金計画を立てると、あとで慌てずにすみます。
- ・繁忙期と研修日を重ねない(月末の締め、決算前、工期の山場など)
- ・受講者ごとに代わりの担当を先に決め、研修中は呼び出さない取り決めをする
- ・1回の時間を詰め込みすぎず、全員が出られる日程に分ける
- ・欠席が出たときの振り替えの扱いを、研修会社と事前に話しておく
3. 経費75%の助成と合わせた全体像
研修経費の助成は、中小企業で75%です。ただし1人1研修あたりの上限があり、研修の時間数によって上限額が変わります。eラーニングは時間数にかかわらず別の上限になります。経費の助成を見積もるときは、研修費を受講人数で割った「1人あたりの経費」がこの上限に収まっているかを確認します。
| 研修の時間数 | 経費の上限 |
|---|---|
| 10時間以上100時間未満 | 30万円 |
| 100時間以上200時間未満 | 40万円 |
| 200時間以上 | 50万円 |
| eラーニング | 15万円 |
全体像としては、「研修費のうち75%(上限あり)」と「研修中の賃金として延べ時間×1,000円」の2つを足したものが、会社に戻ってくるお金の目安です。研修時間を長く取ると、経費の上限が一段上がるだけでなく、賃金助成の延べ時間も増えます。一方で、時間を延ばすほど現場から人が抜ける時間も増えます。助成額だけを見て時間を伸ばすのではなく、業務で使えるところまで身につくのに何時間要るかから決めるのが筋です。
4. 「職務に直接関係する研修」という条件
このコースで対象になるのは、DXなど事業の変化に伴って新しい分野で必要になる知識・技能を身につける研修のうち、職務に直接関係するものです。2026年8月3日以降に出す計画届からは、職務に間接的に必要な内容や、職種を問わない共通の内容(接遇・マナーなど)の研修は、DXに関するものでも対象外になりました。つまり「生成AIの研修だから対象になる」とは言えず、受講する人の仕事とどうつながるかが問われます。
| 研修内容の書き方 | 職務とのつながり | 見直しの方向 |
|---|---|---|
| 接遇・ビジネスマナー | 職種を問わない共通の内容 | 対象外と明記されている |
| 誰でも使える生成AIの基本操作 | 職務とのつながりが見えにくい | 受講者の業務に当てはめた内容に組み直す |
| 見積担当が過去の見積から下書きを作る手順 | 担当業務に直結 | 担当業務と作る成果物を計画に書く |
| 工事担当が安全書類を作る作業の効率化 | 担当業務に直結 | 使う書類と手順を具体的に書く |
| 品質担当が検査記録を整理する方法 | 担当業務に直結 | 対象の記録と作業の流れを書く |
判断の目安は、「受講者の名前と担当業務を並べたとき、研修の内容がその業務の手順にそのまま入るか」です。総務・経理・工事・製造など職種の違う人をまとめて同じ内容で受けさせる場合は、職種ごとに演習の題材を分けるなど、それぞれの業務とのつながりが説明できる形にしておきます。最終的に対象になるかは労働局の判断なので、計画届の前に社会保険労務士と内容をすり合わせてください。
- ・受講者ごとに、いまの担当業務を一行で書き出す
- ・研修で扱う題材を、自社の実際の書類や作業(見積書、日報、検査記録など)にする
- ・研修のあと、どの作業を誰がどう変えるかを計画に書く
- ・会社の外で行う研修(OFF-JT)で、合計10時間以上になっているか確認する
5. 申請の段取りと期限
この助成金は、研修を始める前に計画届を出すところから始まります。計画届は研修開始の6か月前から1か月前までに提出します。提出が遅れると対象になりません。研修が終わったら、翌日から2か月以内に支給申請を行います。また、このコースは2026年度末までの時限措置です。いまから計画するなら、計画届の提出から研修開始まで少なくとも1か月空けることを踏まえ、年度内に収まる日程かどうかを最初に確かめてください。
- 研修開始の6か月前〜1か月前計画届を提出(遅れると対象外)
- 研修期間会社の外で行う研修(OFF-JT)を合計10時間以上実施し、出席と時間の記録を残す
- 研修終了の翌日から2か月以内支給申請を行う
- 2026年度末事業展開等リスキリング支援コースの時限措置の期限
受講の回数にも制限が加わっています。研修の受講は1人あたり1年度に3回まで、そのうちeラーニングは1回までです。同じ社員に複数の研修を受けさせる計画がある場合は、年度内の回数を数えてから組み立てます。申請の書類づくりは社会保険労務士が担うことが多く、自社と社労士でどこまでを分担するかも早めに決めておくと日程が組みやすくなります。
6. 研修中に残しておく記録
賃金助成は「実際に受講した時間」で数えるため、研修が終わってから記録を集め直すのは手間がかかります。支給申請の期限は研修終了の翌日から2か月以内なので、研修の最中から必要なものを残していく形にしておくと、終わってからの作業が確認だけになります。求められる書類の種類や様式は、社労士か労働局で事前に確認してください。
- 研修が終わってから受講者に出欠を聞き直す
- 研修日の勤怠と研修時間が合っているか、後から突き合わせる
- 研修会社の請求書や領収書を経理から探してもらう
- カリキュラムと実際の内容の違いを思い出しながら書く
- 研修の日ごとに出席者・開始と終了の時刻を記録する
- 研修日の勤怠をその月のうちに受講記録と並べて確認する
- 研修費の請求書・支払いの記録を一つのフォルダにまとめておく
- 時間割の変更があれば、その日のうちにメモを残す
- ・受講者ごとの出席の記録(日付・開始と終了の時刻)
- ・研修日の出勤簿・タイムカードなど勤怠の記録
- ・研修中の給料を払ったことがわかる賃金台帳
- ・研修会社との契約書・請求書・支払いの記録
- ・実施したカリキュラム(時間割と内容)
7. 自社で次にやること
研修中の賃金助成を見込むには、まず「誰に・何時間・どの業務のために」受けさせるかを社内で決めることが出発点です。助成額の目安はそのあとに出せます。工場長・工事部長と総務・経理の担当者が同じ表を見ながら決めると、現場の都合と資金繰りの両方を踏まえた計画になります。
- ・受講候補の社員と担当業務を一覧にする
- ・研修で変えたい作業(見積、日報、書類作成など)を決める
- ・1人あたりの研修時間を決め、延べ時間と賃金助成の目安を出す
- ・研修費を受講人数で割り、経費の上限に収まるか確認する
- ・計画届の期限から逆算して研修日を決め、年度内に収まるか確かめる
- ・社会保険労務士に、内容が職務に直接関係するかと書類の分担を相談する
