東海DX伴走室
現場のデジタル化

職人が日報をスマホで書かない理由と対策|項目・手袋・意味の3つの壁

公開  約12分で読めます
この記事の要点
  • ✓日報アプリが使われない原因は職人の意識ではなく、入力項目の多さ、手袋や泥で打ちにくい場面、書いても何も返ってこないことの3つにあります。
  • ✓項目は職人が書く欄と事務所が埋める欄に分け、選択式・音声入力・写真で文字入力そのものを減らすと、送られてくる日報が増えます。
  • ✓最初は全員一斉に始めず、現場で信頼されている職長に評価役として頼み、紙との併用期間の終わりを決めてから広げます。

日報アプリを入れたのに、送られてくるのは一部の職長からだけ。結局、夕方に事務所から電話をかけて「今日は何人入った?どこまで進んだ?」と聞き取っている。愛知・岐阜・三重・静岡の工務店や設備・土木の会社で、こうした声をよく聞きます。この記事では、アプリの選び方ではなく、すでにあるしくみを職人に使ってもらうための工夫に絞って、書かれない理由と対策、最初に頼む人の選び方、始めの1か月の進め方をまとめます。

1. 日報アプリを入れても書かれない現場で起きていること

書かれない理由を「職人がスマホに慣れていないから」「面倒くさがるから」で片付けると、対策が「使い方の説明会をもう一度開く」「社長から強く言う」に偏ります。ところが、紙の日報のころから出してくれなかった人は、スマホになっても出してくれません。逆に言えば、紙のときに出なかった理由と、スマホで出ない理由はほとんど同じです。現場で聞き取ると、理由はおおむね次の3つに分かれます。

表1 職人が日報を書かない3つの理由と対策の方向
書かれない理由現場で起きていること対策の方向
入力項目が多い紙の様式をそのまま画面に移し、天候から明日の予定まで全部埋めないと送れない職人が書く欄を絞り、残りは選択式か事務所で埋める
手袋・泥・日差しで打ちにくい片付けの後、手袋を外して汚れた指で小さな文字を打つことになる音声入力と写真で、文字を打つ量そのものを減らす
書く意味が見えない送っても返事がなく、事務所のための書類だと受け取られている日報をもとに段取りや手配が早くなる様子を見せる
出典:東海DX伴走室編集部の整理
ポイント書かれない日報を見直すときは、人の意識ではなく「入力の手間」「入力する場面」「返ってくるもの」の3つの側から見ていくと、手を打つ場所がはっきりします。

2. 理由1 入力項目が多い:職人が書く欄を選択式に絞る

日報アプリを導入するとき、多くの会社は今使っている紙の日報の欄をそのまま画面に並べます。現場名、日付、天候、作業内容、作業員の名前と人数、開始・終了時刻、使った重機や車両、搬入された材料、安全上の気づき、明日の予定、特記事項。紙なら空欄のまま出せた欄も、アプリでは「必須」にしてしまい、全部埋めないと送信ボタンが押せない、ということが起きます。職人からすると、紙より面倒になったと感じるのは当然です。

項目を「職人が書く欄」と「事務所が埋める欄」に分ける

まず、今の日報の欄を書き出し、それぞれ「現場にいる人しか分からないことか」を一つずつ確かめます。天候は事務所でも分かります。現場名や工事番号は、あらかじめ担当現場を登録しておけば選ぶだけで済みます。作業員の名前も、いつものメンバーを初めから表示しておき、休んだ人だけ外す形にできます。

  • ・職人にしか書けないこと:今日どこまで進んだか、予定どおりか、困っていること、明日必要なもの
  • ・選べば済むこと:現場名、作業の種類、人数、天候、使った重機
  • ・事務所で埋められること:工事番号、元請名、日付、単価や集計に使う区分
  • ・なくても困らないこと:紙の様式の名残で残っているだけの欄(誰も見ていない欄は思い切って外す)

選択式にする欄と、自由記述に残す欄

表2 日報の欄ごとの入力の形の決め方
欄入力の形決め方の目安
現場名一覧から選ぶその人の担当現場だけを上に出す
作業の種類ボタンで選ぶ現場で実際に使う呼び名で並べる
人数・時間いつもの値を初めから入れておく違う日だけ直す
進み具合予定どおり/遅れ/前倒しから選ぶ遅れのときだけ理由を聞く
困りごと・明日必要なもの音声か短い文空欄でも送れるようにする
出典:東海DX伴走室編集部の整理

選択肢は多すぎると、かえって探すのに時間がかかります。よく使うものを上に並べ、めったに使わないものは「その他」にまとめ、その他を選んだときだけ一言書いてもらう形にします。また、「いつもどおりなら何も触らずに送れる」状態をつくると、送信までの手間が大きく減ります。変わったことがあった日だけ直してもらえば十分です。

注意選択肢を事務所の言葉でつくらないでください。工種の正式名称より、現場で毎日使っている呼び名のほうが迷わずに押せます。選択肢の案は、最初に頼む職長に見てもらってから決めます。

3. 理由2 手袋で打ちにくい:音声入力と写真で文字を減らす

職人が日報を書くのは、昼の休憩、片付けの後、帰りの車の中といった短い時間です。手袋を外し、泥やグリスで汚れた指で小さな画面を触ると、反応しなかったり押し間違えたりします。夏の屋外では日差しで画面が見えにくく、年配の職人には文字が小さすぎることもあります。こうした場面の条件は、説明会をいくら開いても変わりません。変えられるのは、文字を打つ量のほうです。

音声入力は「話す順番」を決めて使う

スマホに最初から入っている音声入力を使えば、マイクのボタンを押して話すだけで文字になります。ただ、自由に話してもらうと、話があちこちに飛んで事務所で読みにくくなります。そこで「どこで、何を、どこまで、明日は何が要る」の順に話す、と決めておきます。重機の音がする場所では誤変換が増えるので、車に乗ってから話すように伝えると聞き取りがよくなります。多少の誤変換は事務所で直す前提にして、職人には言い直しを求めないことも続けてもらうコツです。

進み具合は写真1枚で伝えてもらう

「2階の配管、東側まで終わり」と文字で書くより、作業場所を1枚撮って送るほうが早く、事務所にも正確に伝わります。撮る場所を決めておけば、毎日同じ角度の写真が並び、進み具合の比較にも使えます。現場のホワイトボードに当日の作業と人数を書いている会社なら、そのボードを撮るだけで日報の大半が埋まります。

図1 文字入力を減らす前と後の、職人の日報の書き方
導入前
  • 手袋を外し、現場名や工事番号を一字ずつ打つ
  • 作業内容を文章で書く
  • 人数と時間を毎日同じように入れ直す
  • 明日必要な材料は事務所に電話して伝える
  • 全部の欄を埋めないと送信できない
導入後
  • 担当現場を一覧から選ぶ
  • 作業の種類はボタンを押すだけ
  • 人数と時間はいつもの値のまま、違う日だけ直す
  • 進み具合は写真1枚、明日要るものは音声で一言
  • 空欄があっても送れて、事務所が足りない所を補う

画面のつくりで直せること

  • ・ボタンは手袋をしたままでも押せる大きさにする
  • ・1つの画面で聞くことは1つにして、下までスクロールさせない
  • ・文字は大きく、背景との差をはっきりさせて屋外でも読めるようにする
  • ・途中で電話が鳴っても、入れたところまで残るようにする
  • ・送信できたことが一目で分かる表示を出す

4. 理由3 書く意味が見えない:日報が現場に返ってくるしくみ

入力の手間を減らしても、まだ書かれないことがあります。そのとき残っているのが「書いて何になるのか」という気持ちです。職人から見ると、日報は事務所や元請に出すための書類で、自分の仕事が楽になるものではありません。送っても返事がなく、誰が読んでいるのかも分からなければ、手が止まるのは自然なことです。ここを変えるには、日報を出すと現場の側にも得がある、という流れを目に見える形でつくります。

図2 日報が現場に返ってくるまでの流れ
  1. 01現場から送る夕方、職長が選択式の項目と写真、明日要るものを音声で送る
  2. 02事務所が読む工事担当や事務が当日中に目を通し、足りない欄を補う
  3. 03手配に使う明日要る材料や応援の人を、その日のうちに手配する
  4. 04現場に返す「材料は朝8時に届きます」など、日報を見て動いたことを一言返す
  5. 05書類に流す出面や作業時間を集計に使い、月末の聞き取りや電話を減らす
返事は長くなくてかまいません。「見ました」「手配しました」の一言で、読まれていることが伝わります。
  • ・明日の材料や応援の段取りが、電話をかけなくても進む
  • ・月末に「あの日は何人入った?」と聞かれなくなる
  • ・写真を送っておけば、元請への報告や写真台帳を事務所がつくってくれる
  • ・手戻りや追加工事のとき、いつ何をしたかを日報で示せる
ポイント始めて最初の数週間は、送られてきた日報すべてに事務所から一言返すと決めておきます。返事が来ると分かると、次の日も送ってくれる人が増えます。

5. 最初に頼む人の選び方と頼み方

全員に一斉に使ってもらおうとすると、入力の項目や画面の直しどころが見つかる前に「使いにくい」という評判だけが広がります。最初は少人数の職長に頼み、使いにくい所を直してから広げるほうが、結果として早く全体に行き渡ります。問題は、誰に頼むかです。

表3 最初に頼む人を選ぶときの条件
選ぶときの条件理由
ほかの職人から一目置かれているその人が使っていると、周りも「やってみるか」となる
紙の日報をきちんと出してくれていた書く習慣がある人なら、手間の差を正しく比べてくれる
使いにくい所を遠慮なく言ってくれる直すべき所が早く見つかる
一つの現場に続けて入っている毎日同じ現場なら、写真や選択肢の決め方を試しやすい
スマホで写真や連絡をふだんから送っている操作の説明に時間をとられず、中身の改善に集中できる
出典:東海DX伴走室編集部の整理

避けたほうがよい選び方

  • ・若くてスマホに強いという理由だけで選ぶ(周りの職人が「若い人向けのもの」と受け取り、広がらない)
  • ・一番反対している人から説得しようとする(最初の改善が進まないまま時間が過ぎる)
  • ・本人に聞かずに社長や部長が指名だけする(やらされている感が先に立つ)
  • ・現場を転々とする応援の人に頼む(現場ごとに状況が違い、直す所が絞れない)

「試してもらう人」ではなく「直す所を教えてもらう人」として頼む

頼むときの言い方で、受け止め方は大きく変わります。「今日からこれで日報を出してください」ではなく、「みんなに使ってもらう前に、使いにくい所を教えてほしい」と、評価する役として頼みます。そのうえで、言われた不満は実際に直し、「言ってもらった所を直しました」と本人に伝えます。自分の意見で画面が変わると、その人はほかの職人に説明する側に回ってくれます。

協力会社の職人に頼むとき

協力会社の職人には、自社の社員と同じように頼むことはできません。まずは協力会社の社長や職長に、日報を送ってもらうと電話での確認が減ること、出面の食い違いが起きにくくなることを説明し、了解を得てから始めます。最初から全項目を求めず、写真と人数だけ送ってもらう形から始めると受け入れてもらいやすくなります。

6. 始めの1か月の進め方と、紙との併用期間の決め方

最初に頼む職長が決まったら、いきなり本番に入らず、週ごとに目標を決めて進めます。最初の週は「送れること」だけを目標にし、中身の正確さは問いません。事務所の側は、送られてきたものを読んで返事をすることと、使いにくい所を集めることに集中します。

図3 日報をスマホに移す最初の1か月の流れ
  1. 始める前紙の日報の欄を洗い出し、職人が書く欄と事務所が埋める欄に分ける。選択肢の案を職長に見てもらう
  2. 1週目頼んだ職長だけで試す。紙と両方出してもらい、送れることだけを目標にする。事務所は毎回一言返す
  3. 2週目出てきた不満をもとに、選択肢の並びや必須の欄を直す。音声入力と写真の使い方を職長と決める
  4. 3週目紙をやめ、スマホだけにする。同じ班の職人に、職長から使い方を伝えてもらう
  5. 4週目ほかの現場の職長に広げる。最初の職長に、使ってみてどうだったかを話してもらう
注意紙との併用は、終わりの日を始める前に決めておきます。終わりを決めないと、紙もスマホも両方出す期間がずるずる続き、職人にとっては手間が増えただけになります。

広げる段階では、事務所から説明するより、最初の職長に話してもらうほうが伝わります。朝礼や安全大会のついでに、「写真と一言で済むから、紙より楽」と実際の画面を見せてもらうと、ほかの職人も具体的に思い浮かべられます。使い方の資料は紙1枚にまとめ、現場の詰所や車に置いておくと、困ったときにすぐ確かめられます。

7. 書かれなくなったときの見直し方

一度は使われ始めても、繁忙期や現場が変わったときに送られなくなることがあります。そのときに「また言わなきゃ」と注意するだけでは、同じことが繰り返されます。どんな形で止まっているかを見て、原因に合わせて直します。

表4 日報が止まったときの症状と見直すこと
症状考えられる原因見直すこと
送られてくるが中身が空に近い必須の欄が多く、とりあえず埋めて送っている必須を減らし、写真か音声の一言を求める形にする
特定の現場だけ止まるその現場の作業が選択肢に合っていないその現場の職長と選択肢を足し直す
繁忙期に止まる書く時間がとれない帰りの車の中で話すだけで済む形にする
返事をやめたら減った読まれていないと受け取られている手配や確認に使ったときは必ず一言返す
新しく入った人が書かない使い方を誰も教えていない職長から最初の1日だけ横で教えてもらう
出典:東海DX伴走室編集部の整理

見直しは、事務所だけで決めずに、書かなくなった職人本人に「どこが面倒か」を聞くところから始めます。答えはたいてい具体的で、「この欄が毎回同じなのに消える」「写真を選ぶ画面が分かりにくい」といった、少し直せば済む話であることが多いものです。次に取りかかることとしては、まず今の日報の欄を1枚の紙に書き出し、職人が書く欄と事務所が埋める欄に印を付けてみてください。そのうえで、最初に頼む職長を1人決め、本人に評価役として声をかけるところまで進めると、あとは週ごとの流れに沿って動けます。

8. よくあるご質問

Q
スマホを持っていない、または会社のアプリを入れたくないという職人にはどうすればよいですか。
A
無理に全員に入れてもらう必要はありません。同じ班の職長がまとめて送る形にすれば、その人の分の日報も残せます。私物のスマホに入れることに抵抗がある場合は、班ごとに会社の端末を1台持たせる方法もあります。
Q
音声入力の誤変換が多くて、事務所で読めないことがあります。
A
話す順番を「どこで、何を、どこまで、明日要るもの」と決めておくと、多少の誤変換があっても意味が取れます。騒音の大きい場所ではなく、車に乗ってから話してもらうと聞き取りがよくなります。読めない所は事務所から電話で確認し、職人に言い直しを求めないようにします。
Q
日報を出さない人に、罰則や評価への反映を決めたほうがよいですか。
A
最初から罰則を決めると、中身の薄い日報が増えるだけになりがちです。まずは入力の手間を減らし、返事をして、出すと段取りが早くなる流れを見せることを優先します。それでも出ない場合は、本人に何が面倒かを聞いて画面や項目を直します。
Q
写真だけで日報の代わりになりますか。
A
進み具合を伝えるには、文章より写真のほうが正確な場合が多くあります。ただ、人数や明日必要な材料など写真では分からないこともあるので、写真に選択式の項目と音声の一言を組み合わせる形が使いやすくなります。
編集部
この記事を書いた人
東海DX伴走室編集部
東海4県の製造業・建設業のDXを支援しています。制度の内容は、公開日時点の公的機関の資料をもとにしています。
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