建設業の積算にAIをどう使う?生成AIに任せる作業と人の判断
- 公式情報の確認日
- ✓生成AIが手伝いやすいのは、仕様書や特記事項を読んで拾い漏れを探す作業と、過去の積算を探す作業
- ✓数量の拾い出しと単価の決定は、AIに下書きを出させても、最後は積算の担当者が確かめて決める
- ✓図面や金額を扱うため、学習に使われない設定の契約と、社内の使い方の決まりを先に整える
1. 積算の仕事の流れと、時間がかかるところ
建設業の積算は、図面と仕様書から工事に必要な数量を拾い出し、単価を掛けて工事費を積み上げる仕事です。公共工事の入札でも、民間の見積でも、積算の出来がそのまま受注と利益を左右します。一方で、図面の枚数が多い工事では拾い出しに何日もかかり、仕様書や特記事項の読み落としが、あとで大きな手戻りにつながることもあります。積算ができる人は社内に限られ、その人の手が空くのを待って入札や見積の準備が進む、という会社も少なくありません。
- 01書類を読む図面・仕様書・特記事項・質問回答などを読み込む
- 02数量を拾う図面から工種ごとの数量を拾い出す
- 03単価を当てる公表されている単価や見積、過去の実績から単価を決める
- 04工事費を積み上げる直接工事費に経費を加え、全体の金額を出す
- 05見直す拾い漏れや重なり、過去の似た工事との差を確かめる
生成AIをどこに使うかを考えるときは、この流れのどこに時間がかかり、どこで誤りが起きやすいかを先に見ておきます。多くの会社で時間がかかるのは、書類を読む段階と数量を拾う段階です。誤りが起きやすいのは、特記事項の読み落としと、拾い出しの漏れや重なりです。生成AIは、このうち「読む」と「見直す」の手伝いが得意です。
2. 生成AIが手伝いやすい作業
生成AIは、長い文章を読んで要点を抜き出したり、決まった観点で書類を見比べたりする作業が得意です。積算の仕事に当てはめると、仕様書や特記事項の読み込み、過去の積算の検索、拾い出しの結果の見直しといった場面で力を発揮します。反対に、図面の寸法を正確に読み取って数量を計算する作業は、まだ人の確かめが欠かせません。
| 作業 | 生成AIの手伝い方 | 担当者が確かめること |
|---|---|---|
| 仕様書・特記事項の読み込み | 積算にかかわる条件を工種ごとに抜き出して一覧にする | 抜き出しに漏れがないか、原文と見比べる |
| 質問回答書の反映 | 回答で変わった条件を、前の版と見比べて示す | 変わった条件を積算に反映したか |
| 数量の拾い出し | 拾い出しの項目の一覧や、確かめる観点を出す | 数量そのものは担当者が拾い、根拠を残す |
| 過去の積算の検索 | 工事の種類や規模が近い過去の積算を探す | 条件の違いを見て、使えるかを決める |
| 見直し | 拾った項目と仕様書を見比べ、漏れや重なりの候補を出す | 候補を1つずつ確かめる |
表のとおり、どの作業でも、生成AIが出すのは「候補」や「一覧」までで、決めるのは担当者です。生成AIは、もっともらしい間違いを自信ありげに書くことがあります。条件を抜き出させたときも、必ず原文のどこに書いてあったかを一緒に出させ、担当者が原文を開いて確かめられるようにしておきます。確かめる手間を惜しんで結果をそのまま使うと、読み落としを減らすつもりが、かえって別の誤りを積算に持ち込むことになります。
3. 仕様書と特記事項を読ませて、拾い漏れを防ぐ
積算の手戻りの多くは、仕様書や特記事項の一文を読み落としたことから起きます。材料の指定、施工の条件、仮設の扱い、発注者が別に支給するものなど、金額に響く条件は書類のあちこちに散らばっています。生成AIに書類を読ませ、積算にかかわる条件を工種ごとに一覧にさせると、読み落としを見つける手がかりになります。
- ・材料や製品の指定:規格や品質の条件が書かれている箇所
- ・施工の条件:作業できる時間帯、搬入の制約、近隣への配慮など
- ・仮設と準備:仮設の範囲、発注者の用意するもの、自社で用意するもの
- ・変更や追加:質問回答書で条件が変わった箇所
抜き出させるときは、「積算にかかわる条件を、工種ごとに、書かれている箇所と一緒に出して」と、欲しい形を具体的に伝えます。社内でよく使う観点をひな形にしておけば、担当者が変わっても同じ観点で読み込めます。いちど一覧ができれば、担当者は一覧を見ながら原文を確かめ、積算に反映したかどうかに印を付けていくだけで済みます。
4. 数量の拾い出しは、どこまで任せられるか
数量の拾い出しは、積算の中でいちばん時間がかかる作業です。図面から寸法や数を読み取り、工種ごとに集計していく作業を、AIにそのまま任せたいと考える方も多いはずです。ただ、紙やPDFの図面から寸法と記号を正確に読み取り、図面どうしの関係まで理解して数量を出すことは、今の生成AIには難しい作業です。拾い出しの専用のソフトを使っている場合も、最後に担当者が確かめて根拠を残す流れは変わりません。
- 工種ごとの拾い出しの項目を、担当者が記憶を頼りに並べる
- 拾い終わってから、漏れがないかを自分で見直す
- 過去の似た工事の拾い出しを、ファイルを開いて探す
- 工事の種類に合った拾い出しの項目の一覧から始める
- 拾った項目と仕様書の条件を見比べた、漏れの候補が出る
- 規模の近い過去の工事の数量が並び、大きな差に気づける
数量そのものは担当者が拾い、生成AIは項目の一覧づくりと見直しを手伝う。この分担にすると、拾い出しの速さよりも、拾い漏れを減らす効果が大きくなります。過去の似た工事と比べて、数量が大きく違う工種に印が出るようにしておけば、桁の誤りや拾いすぎにも気づきやすくなります。
5. 過去の積算と単価をためて、使えるようにする
積算の担当者が頼りにしているのは、過去に自社で積算した工事の記録です。どの工種にいくらの単価を当てたか、協力会社からの見積はいくらだったか、実際の工事ではいくらかかったか。こうした記録が担当者ごとのファイルに散らばっていると、せっかくの経験が社内で使えません。過去の積算を、工事の種類や規模、場所で探せる形にためておくと、生成AIに探させることもできるようになります。
| 情報 | 使い道 |
|---|---|
| 工事の種類・規模・場所 | 似た工事を探す手がかりにする |
| 工種ごとの数量 | 新しい工事の数量と比べて、大きな差に気づく |
| 当てた単価と、その出どころ | 単価を決めるときの参考にする |
| 協力会社からの見積 | 協力会社ごとの見積の傾向を見る |
| 落札・受注の結果と実際の原価 | 積算と実際の差を見返す |
単価は、公表されている単価、協力会社からの見積、自社の実績など、出どころによって意味が違います。ためるときは、金額だけでなく、どこから持ってきた単価かを一緒に残しておきます。出どころがわかれば、次の工事でその単価をそのまま使えるか、取り直すべきかを判断できます。いつの時点の単価かも一緒に残しておくと、資材の値動きが大きい時期に古い単価を使ってしまう誤りも防げます。受注した工事では、積算と実際の原価の差を工種ごとに見返しておくと、次の積算で気をつける工種が見えてきます。
6. 協力会社の見積を集めて、比べる作業にも使う
積算では、自社で単価を決めにくい工種について、協力会社や専門の業者から見積を取ることがあります。届く見積は会社ごとに書式も項目の分け方も違い、比べるためには担当者が1つの表に写し直す必要があります。入札までの期間が短い工事では、この写し直しと比べる作業が、積算の担当者の時間を大きく削ります。
- 01見積を集めるPDFや紙で届いた見積を1か所に集める
- 02項目をそろえるAIで読み取り、自社の工種の分け方に当てはめる
- 03並べて比べる同じ工種の金額と、含まれる範囲の違いを並べる
- 04担当者が選ぶ範囲の違いを確かめ、積算に使う見積を決める
見積を比べるときに気をつけたいのは、金額よりも「どこまでを含んだ金額か」の違いです。運搬や仮設、諸経費を含むかどうかで、同じ工種でも金額は大きく変わります。生成AIに、見積ごとに含まれる範囲と含まれない範囲を抜き出させておくと、範囲の違いに気づきやすくなります。集めた見積を過去の積算と一緒にためておけば、次の工事でどの協力会社にどの工種を頼むかを考える材料にもなります。
7. 図面や金額を扱うときの決まり
積算で生成AIを使うときにいちばん気をつけたいのが、情報の扱いです。発注者から受け取った図面や仕様書、自社の単価や積算の結果は、外に出してはいけない情報です。誰でも使える無料のAIのサービスに図面や金額をそのまま入れると、入れた情報がどう扱われるかを自社で管理できません。
- ・学習に使われない設定の契約を使う:入れた情報がAIの学習に使われないことを契約で確かめる
- ・入れてよい情報を決める:発注者との約束や入札の決まりに照らして、入れてよい書類を決める
- ・使う人と使い方を決める:誰がどの書類で使ってよいか、社内の決まりにしておく
- ・結果を鵜呑みにしない:AIの出した内容は、原文と見比べてから積算に使う
決まりをつくらずに使い始めると、担当者ごとに違うサービスを使い、どの情報がどこに入ったかがわからなくなります。会社として使うサービスと使い方を先に決め、そのうえで担当者に使ってもらう順番をとります。決まりは一度つくって終わりではなく、使っていく中で迷った場面が出てきたら、その都度書き足していきます。担当者が「これは入れてよいか」と迷ったときに相談できる人を決めておくと、決まりが形だけにならずに済みます。
8. 社内で使える人を増やす進め方と、使える制度
積算に生成AIを取り入れるときは、しくみをつくる前に、積算の担当者が生成AIの得意・不得意を知ることが先になります。自社の仕様書や過去の積算を使って、実際に読み込ませたり探させたりしてみると、どこで役に立ち、どこで確かめが要るかが体でわかります。そのうえで、よく使う使い方をひな形やしくみにしていきます。試した結果は担当者どうしで見せ合い、うまくいった頼み方を社内で共有していきます。
- 1段階目使うサービスと社内の決まりを決め、積算の担当者が自社の書類で試す
- 2段階目仕様書・特記事項の読み込みを、観点のひな形にして全員で使う
- 3段階目過去の積算を探せる形にためる
- 4段階目拾い出しの項目の一覧と見直しを、しくみに組み込む
| 制度 | 向いている場合 | 補助・助成の内容 |
|---|---|---|
| 人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース) | 積算の担当者が生成AIの使い方を学ぶ研修 | 中小企業は経費の75%・賃金1時間1,000円(令和8年度末までの時限措置) |
| デジタル化・AI導入補助金(通常枠) | 事務局に登録された既製のツールを使う | 5万〜450万円・1/2以内 |
| 中小企業省力化投資補助金(一般型) | 自社の積算の流れに合わせてしくみをつくる | 従業員数により750万〜8,000万円・中小企業は1/2 |
研修の助成金は、2026年8月3日以降に出す計画から、職務に間接的に必要な内容などが対象外になる改正がありました。積算の仕事に直接使う内容で組み立てる必要があります。補助金は、交付の決定より前に契約や発注をしたものは対象になりません。東海DX伴走室では、自社の書類を使った研修から、過去の積算をためるしくみづくりまでを一緒に進めています。
