請求書のAI-OCRを中小企業で使うには?会計ソフトへ取り込む手順
- 公式情報の確認日
- ✓AI-OCRで減らせるのは、請求書を見ながら会計ソフトに打ち込む作業。支払ってよいかの判断は人に残る
- ✓読み取った内容を仕訳の下書きにして会計ソフトへ取り込むと、打ち込みが確かめる作業に変わる
- ✓インボイスの記載事項と、メールで届く請求書の保存の決まりも、しくみの中で一緒に扱える
1. 請求書の処理で、時間がかかっているところ
月末から月初にかけて、取引先から届く請求書を1枚ずつ開き、会計ソフトに打ち込み、支払の予定を組む。中小企業の経理では、この作業を1人か2人で抱えていることが多く、締めの時期はほかの仕事が止まりがちです。製造業なら材料や外注の請求書、建設業なら協力会社や資材の請求書と、取引先の数だけ書式があり、紙・PDF・メールと届き方もばらばらです。
- ・紙で届いた請求書を開封し、メールで届いたPDFを印刷して、1か所に集める
- ・取引先・日付・金額・税額を見ながら、会計ソフトに打ち込む
- ・発注や納品の記録と見比べて、請求の中身が合っているか確かめる
- ・支払の予定を組み、請求書を綴じて保管する
このうち、AI-OCRで手間を減らせるのは2つめの「見ながら打ち込む」作業です。請求書の画像やPDFから、取引先の名前や金額などの項目を読み取り、会計ソフトに入れられる形に並べるところまでをしくみに任せます。3つめの見比べと、支払ってよいかの判断は、これまでどおり人が行います。1つめの集める作業も、届き方ごとの置き場所を決めておくだけで、読み取りに回す前の手間が軽くなります。
2. AI-OCRで読み取る項目
これまでの読み取りソフトは、書式ごとに「どこに何が書いてあるか」を設定する必要がありました。AIを組み込んだ読み取りでは、書式が違っていても「請求金額」「税額」「振込先」といった項目を、文字の並びと文脈から見つけられるようになっています。取引先ごとの設定が減るため、書式の種類が多い中小企業でも使いやすくなりました。
| 項目 | 使い道 | 読み取りで気をつけること |
|---|---|---|
| 請求元の名前 | 取引先の特定、仕訳の相手 | 略称や支店名の書き方の違い |
| 登録番号 | インボイスかどうかの確認 | 1文字の読み違いで別の番号になる |
| 請求日・取引の日付 | 計上する月の判断 | 和暦と西暦、日付の書き方の違い |
| 税率ごとの金額と税額 | 仕訳の金額と税の区分 | 10%と8%が混ざる請求書 |
| 振込先・支払期日 | 支払の予定づくり | 口座の変更に気づけるか |
| 明細 | 発注・納品の記録との見比べ | 行が多い請求書は読み取りに時間がかかる |
振込先は、読み取れるかどうかよりも、前回と変わっていないかを確かめることに意味がある項目です。取引先ごとに前回の振込先を持っておき、違っていたら印を付ける形にすると、振込先の変更を装った不正な請求にも気づきやすくなります。明細の行は、すべてを読み取る必要があるかを最初に決めておきます。会計ソフトに入れるのが合計と税額だけなら、明細は発注や納品の記録と見比べたい取引先に絞って読み取るほうが、確認の手間も利用料も抑えられます。
3. インボイスの記載事項と、読み取りのかかわり
2023年10月にインボイス制度が始まってから、受け取った請求書が決められた事項を満たしているかを確かめる作業が、経理に加わりました。国税庁の説明では、書類の名称にかかわらず、次の事項が書かれていれば適格請求書(インボイス)として扱われます。AI-OCRで項目を読み取るなら、これらの事項が揃っているかの確認も、しくみに手伝わせることができます。
| 記載事項 | しくみで手伝えること |
|---|---|
| 交付を受ける相手方(自社)の氏名または名称 | 自社の名前が書かれているかを確かめる |
| 売手の氏名または名称と登録番号 | 登録番号が読み取れたかを確かめ、読めなければ印を付ける |
| 取引年月日 | 日付を読み取り、計上する月の候補を出す |
| 取引内容(軽減税率の対象品目である旨) | 軽減税率の品目の書き方を拾う |
| 税率ごとに区分した対価の総額と適用税率 | 10%と8%の金額を分けて読み取る |
| 税率ごとに区分した消費税額等 | 税額を読み取り、計算と合っているかを見る |
読み取った登録番号が正しく登録された事業者のものかどうかは、国税庁の公表の場で確かめる作業が別に要ります。この確かめを取引先ごとに一度行って結果を持っておけば、毎月の請求書では、前回と同じ番号かどうかを見るだけで済みます。インボイスの扱いに迷う請求書が出てきたときは、しくみで決めずに印を付け、経理の担当者や顧問の税理士に判断を任せる形にしておきます。
4. 会計ソフトへは、仕訳の下書きとして取り込む
読み取った項目をそのまま会計ソフトに入れるのではなく、いったん仕訳の下書きにして、人が確かめてから取り込む流れにします。取引先ごとに、よく使う勘定科目や部門をしくみに持たせておけば、下書きの段階でほとんどの欄が埋まった状態になります。多くの会計ソフトには、決まった形のファイルから仕訳をまとめて取り込む口が用意されているため、今の会計ソフトを入れ替えずにつなぐことができます。
- 011か所に集める紙はスキャンし、メールのPDFは決まった場所に保存する
- 02AI-OCRで読み取る取引先・日付・金額・税額・登録番号を項目に分ける
- 03仕訳の下書きをつくる取引先ごとの勘定科目と部門を当てはめる
- 04人が確かめる印の付いた箇所と、発注・納品の記録との違いを見る
- 05会計ソフトへ取り込む確かめた下書きをまとめて取り込む
勘定科目の当てはめは、最初から完璧にする必要はありません。担当者が下書きを直すたびに、その取引先の科目をしくみが覚えていけば、使うほど直す回数が減っていきます。担当者の頭の中にあった「この取引先はこの科目」という知識が、しくみの中にたまっていく形です。同じ取引先でも、材料の請求と修理の請求で科目が変わることがあります。その場合は、明細に出てくる言葉と科目の組み合わせも覚えさせ、決めきれないときは候補を並べて人が選ぶ画面にします。
5. メールで届く請求書と、電子帳簿保存法
請求書の読み取りを考えるときに、あわせて整理しておきたいのが保存の決まりです。国税庁の説明では、電子帳簿保存法の制度は大きく3つに分かれます。このうち、メールの添付ファイルなど電子で受け取った取引の情報は、データのまま保存しなければならないとされています。紙で受け取った請求書をスキャンして保存するのは、決められた要件の下で紙の保存に代えることができる、という選べる制度です。
| 区分 | 内容 | 請求書の処理とのかかわり |
|---|---|---|
| 電子帳簿等保存 | 自社がパソコンで一貫して作成した帳簿や書類を、データで保存できる | 会計ソフトでつくった帳簿の保存 |
| スキャナ保存 | 紙で受け取った書類をスキャナで読み取り、一定の要件の下でデータの保存に代えられる | 紙の請求書をスキャンして保存するかどうかを選ぶ |
| 電子取引 | メールの添付ファイルやインターネット上でやり取りした取引の情報を、一定の要件の下でデータのまま保存しなければならない | メールで届いたPDFの請求書は、データのまま保存する |
メールで届いたPDFを印刷して読み取る流れにしていると、読み取りの画質が落ちるうえ、元のデータを別に保存する手間も残ります。PDFはそのまま読み取りにかけ、元のファイルは決められた場所に保存する流れにしておけば、読み取りと保存を1回の作業でまとめられます。保存の要件の細かいところは、顧問の税理士と確かめてから決めるのが確実です。紙の請求書をスキャンして紙を捨てるかどうかは選べる制度のため、まずは読み取りのためにスキャンし、紙はこれまでどおり保管しておく、という始め方もとれます。読み取りと保存の決まりを分けて考えると、始めやすくなります。
6. 打ち込む仕事が、確かめる仕事に変わる
AI-OCRを入れたあとの経理の仕事は、打ち込むことではなく、しくみが出した下書きを確かめることになります。読み取りに自信がない箇所や、前回と違う振込先、登録番号が読めなかった請求書には印が付き、担当者はその箇所だけを見れば済みます。
- 請求書を見ながら、会計ソフトに1件ずつ打ち込む
- 振込先や登録番号は、気づいたときだけ見比べる
- 締めの時期は、打ち込みで1日が終わる
- 読み取った下書きと元の請求書が並んで表示される
- 前回と違う振込先や読めなかった番号に印が付く
- 印の付いた箇所を確かめて、まとめて取り込む
発注や納品の記録がしくみの中にある会社なら、請求の金額と発注の金額を自動で突き合わせ、違いがあるものだけに印を付けることもできます。確かめる作業に変わると、担当者が休んだときにも、ほかの人が同じ画面を見て処理を続けやすくなります。打ち込みの速さや慣れに頼っていた仕事が、画面を見れば誰でも進められる仕事になるため、経理を1人で抱えている会社ほど変化を感じやすい部分です。
7. 中小企業で始める前に確かめておくこと
AI-OCRのサービスは、読み取る枚数に応じて毎月の利用料がかかるものが多くあります。1か月に届く請求書の枚数が少ない会社では、読み取りのしくみを入れるより、届き方をそろえるほうが先に効くこともあります。導入を決める前に、次のことを確かめておきます。
- ・1か月に届く請求書の枚数と、取引先の数
- ・紙・PDF・メールのうち、どの届き方が多いか
- ・今使っている会計ソフトに、仕訳をまとめて取り込む口があるか
- ・AIのサービスに送る情報が、学習に使われない設定の契約になっているか
枚数と届き方がわかると、どの取引先から始めると効果が大きいかが見えてきます。請求書には取引先の口座や金額といった情報が含まれるため、AIのサービスに送る前に、社内の決まりと契約の内容を確かめておきます。試すときは、過去数か月分の請求書を使い、取引先の書式が偏らないように選びます。読み取りの出来と、確かめるのにかかった時間を記録しておくと、本格的に使うかどうかを数字で判断できます。始めるときも、すべての取引先を一度に切り替えるのではなく、PDFで届く取引先や枚数の多い取引先から使い始め、紙で届く取引先はあとから加える順番にすると、締めの時期に現場が混乱しません。
8. 費用と、使える補助金
費用は、読み取りのサービスの利用料と、会計ソフトへのつなぎ込みや確認の画面をつくる費用に分けて考えます。国の補助金には、インボイスへの対応を名前に掲げた枠もあります。どの枠に当てはまるか、何が対象になるかは公募要領で決まるため、使いたい制度が決まったら、公式の要領を読み合わせながら計画を組み立てます。
| 制度 | 向いている場合 | 補助の額と補助率 |
|---|---|---|
| デジタル化・AI導入補助金(インボイス枠) | インボイスへの対応が目的の場合(対象になるものは公募要領で確かめる) | 〜350万円・3/4〜1/2 |
| デジタル化・AI導入補助金(通常枠) | 事務局に登録された既製のツールで業務を効率にする | 5万〜450万円・1/2以内 |
| 中小企業省力化投資補助金(一般型) | 自社の書類と会計の流れに合わせてつくる | 従業員数により750万〜8,000万円・中小企業は1/2 |
どの制度も、交付の決定より前に契約や発注をしたものは対象になりません。公募の時期から逆算して計画を立てる必要があります。東海DX伴走室では、過去の請求書を使った試し読みから、今の会計ソフトへのつなぎ込み、使い始めてからの手直しまでを一緒に進めています。
