建設業の安全書類を自動化するには?手間の元と減らすしくみ
- 公式情報の確認日
- ✓安全書類の手間の多くは、同じ作業員・会社の情報を現場ごとに書き写すことから生まれている
- ✓人・会社・資格の情報を台帳に一度ためておき、書類は台帳から出す形にすると書き写しが減る
- ✓元請ごとに違う書式は、台帳の項目と書式の欄を結び付けておけば、書式が増えても対応できる
1. 安全書類づくりが重くなる理由
建設業の現場が始まるたびに用意する安全書類は、作業員の名簿、会社の体制を示す書類、持ち込む機械の届、新しく現場に入る人の記録など、種類が多く、1つの現場で何十枚にもなることがあります。元請の立場では協力会社から集めて確かめる手間がかかり、協力会社の立場では元請ごとに違う書式に合わせて書き直す手間がかかります。どちらの立場でも、書類をつくる作業そのものは現場の仕事ではないのに、工事の前後の時間を確実に削っていきます。
- ・現場が変わるたびに、同じ作業員の名前・生年月日・資格を書き直している
- ・元請ごとに書式が違い、同じ内容を別の様式に写し直している
- ・協力会社から届いた書類の抜けや古い情報を、1枚ずつ見比べて確かめている
- ・資格や健康診断の日付が古くなっていないかを、人の記憶で追っている
これらの手間は、書類が多いから生まれているのではなく、同じ情報を何度も手で書き写しているから生まれています。作業員の情報も会社の情報も、中身は現場が変わってもほとんど変わりません。書き写す回数が多いほど、写し間違いや古い情報の混入も起きやすくなり、それを見つけるための確認の手間も増えていきます。変わらない情報を毎回ゼロから書いている部分を減らせれば、安全書類の手間は大きく減らせます。自動化を考えるときは、まずこの「毎回書き写している情報」がどれだけあるかを見るところから始めます。
2. 同じ情報を、何度も書き写している
書類ごとに見ると別々の様式でも、中に書く情報を並べてみると、かなりの部分が重なっています。作業員の名前や資格は名簿にも新しく入る人の記録にも書き、会社の名前や許可の情報は体制を示す書類にも下請の通知にも書きます。どの書類にどの情報を書いているかを表にしてみると、重なりが一目でわかります。
| 情報 | 書く書類の例 | 変わる頻度 |
|---|---|---|
| 会社の名前・所在地・許可の情報 | 体制を示す書類、下請の通知、各種の届 | ほとんど変わらない |
| 作業員の名前・生年月日・住所 | 作業員の名簿、新しく入る人の記録 | ほとんど変わらない |
| 資格・講習の修了 | 作業員の名簿、持ち込む機械の届 | 取得や更新のときだけ |
| 健康診断・保険の加入 | 作業員の名簿 | 年に1回程度 |
| 現場の名前・工期・元請 | ほぼすべての書類 | 現場ごとに変わる |
表のとおり、現場ごとに本当に変わるのは、現場の名前や工期、その現場に入る人の組み合わせくらいです。残りの情報は、一度正しく入れておけば、次の現場でもそのまま使えます。書類づくりを自動にするしくみは、この「変わらない情報」と「現場ごとに変わる情報」を分けて持つことから組み立てます。
3. 台帳に一度ためて、書類は台帳から出す
しくみの中心になるのは、会社・作業員・資格・機械の情報をためておく台帳です。現場が決まったら、その現場に入る会社と作業員を台帳から選び、現場の名前や工期を入れるだけで、必要な書類が様式どおりに出来上がる流れにします。書類を書くのではなく、台帳から選んで書類を出す、という作業に変わります。
- 01台帳にためる会社・作業員・資格・機械の情報を一度だけ入れる
- 02現場を登録する現場の名前・工期・元請を入れる
- 03入る人を選ぶその現場に入る会社と作業員を台帳から選ぶ
- 04書類を出す元請の様式に合わせて、必要な書類をまとめて出す
台帳を最初につくるときは、手元にある過去の書類を読み取って取り込むと早く進みます。紙やPDFで残っている作業員名簿から、名前や資格をAIで読み取って台帳に入れ、人が確かめて登録します。いちど台帳ができれば、あとは新しく入った人や更新された資格を足していくだけで済みます。台帳に入れる項目は、今出している書類に書いている項目を洗い出して決めます。どの書類にも出てこない項目まで最初から集めようとすると、入れる手間が増えて続かなくなるため、まずは書類に必要な項目だけに絞り、足りないものが見つかったときに足していく形が長続きします。
4. 協力会社から集める手間を減らす
元請の立場では、協力会社から書類を集めて確かめる作業が大きな負担です。紙やメールでばらばらに届く書類を開き、抜けている欄や古い日付を探し、足りないものを電話で催促する。この流れを、協力会社が自分の情報を入れる画面に置き換えると、集める作業と確かめる作業の両方が軽くなります。
- 元請の様式を協力会社に送り、書いてもらう
- 届いた書類を開いて、抜けや古い日付を探す
- 足りない書類を電話やメールで催促する
- 協力会社が自社と作業員の情報を画面から入れる
- 抜けている欄や期限切れには、入れる時点で印が出る
- 揃っていない会社だけが一覧でわかる
協力会社にとっても、一度入れた情報が次の現場で使い回せるなら、書き直す手間が減ります。自社の作業員の資格が更新されたときも、台帳を1か所直せば、どの元請の現場にも新しい情報で出せるようになります。とはいえ、協力会社の中には、画面での入力に慣れていないところもあります。すべての協力会社に一度に切り替えを求めるのではなく、紙で届いたものは事務の担当者が読み取って台帳に入れる道も残しておくと、現場が混乱しません。
- ・画面から入れられる協力会社:自社で入力してもらい、元請は確かめるだけにする
- ・紙やFAXで出してくる協力会社:届いた書類をAIで読み取り、事務の担当者が確かめて台帳へ
- ・どちらの場合も:書類は台帳から元請の様式で出す
5. 資格や健康診断の期限を見逃さない
安全書類で見落としやすいのが、資格や講習の有効期限、健康診断の受診日、保険の加入状況といった日付の確認です。書類を1枚ずつ見比べていると、古い日付のまま提出してしまうことがあります。台帳に日付を入れておけば、期限が近い人や切れている人を一覧で出せるようになり、確認の抜けを防げます。
| 日付 | しくみでできること | 人が行うこと |
|---|---|---|
| 資格・講習の有効期限 | 期限が近い人を一覧にして知らせる | 更新の講習を手配する |
| 健康診断の受診日 | 前回の受診から間が空いた人に印を付ける | 受診の予定を組む |
| 保険の加入状況 | 加入の記録がない人に印を付ける | 協力会社に確かめる |
| 現場への入場日 | 新しく入る人の記録が必要な人を出す | 現場での説明を行う |
期限の管理をしくみに任せると、担当者の記憶に頼っていた確認が、誰が見ても同じ結果になる確認に変わります。担当者が休んだり異動したりしても、期限の近い人が一覧で見えていれば、引き継ぎで抜けが出にくくなります。どの資格が必要か、どの日付を基準にするかは現場や元請によって違うため、しくみに持たせる決まりは、自社が関わる現場に合わせて決めます。知らせる時期も、更新の講習の予約が取りにくい時期や、健康診断をまとめて受ける時期に合わせて早めにしておくと、慌てて手配することが減ります。
6. 元請ごとに違う書式に合わせる
協力会社の立場では、元請ごとに書式が違うことが大きな手間です。同じ作業員名簿でも、欄の並びや書く項目が元請によって少しずつ違います。台帳の項目と、それぞれの書式の欄を結び付けておけば、書式が違っても同じ台帳から書類を出せます。新しい元請の書式が来たときは、欄の結び付けを1回つくれば、次からはその元請の書類も自動で出せるようになります。
- ・台帳の項目は、どの元請にも共通する形で持つ
- ・元請ごとの書式は、台帳の項目との結び付けだけを持つ
- ・結び付けられない欄は空けたまま出し、人が書き足す
- ・よく使う元請の書式から順に結び付けていく
この形にしておくと、書式が変わったときも、台帳を直す必要はなく、結び付けを直すだけで済みます。元請が決めた専用の提出の場がある場合は、そこに入れる情報を台帳から書き出して、転記の手間を減らす使い方もできます。元請の立場でも同じ考え方が使えます。自社の様式を決めておき、協力会社の台帳の情報をその様式に当てはめて受け取れば、協力会社ごとに書き方がばらばらになることを防げます。
7. 作業員の情報を預かるときの決まり
台帳には、作業員の名前や生年月日、住所、健康診断の記録など、人に関わる情報がたまっていきます。紙の書類がファイルに綴じてあったときと比べて、しくみの中にまとまっている情報は探しやすく便利な反面、扱いを誤ったときの影響も大きくなります。台帳をつくるときは、便利さと同時に、誰がどこまで見られるかを最初に決めておく必要があります。
- ・見られる人を分ける:事務の担当者、現場の責任者、協力会社で、見られる範囲を変える
- ・協力会社どうしは見えない形にする:自社の作業員の情報だけを見て直せるようにする
- ・直した記録を残す:誰が、いつ、どの項目を直したかがあとからわかるようにする
- ・使わなくなった情報を片付ける:辞めた人や取引が終わった会社の情報の扱いを決めておく
読み取りにAIのサービスを使う場合は、送った情報がAIの学習に使われない設定の契約を選び、送る範囲を読み取りに必要なものに絞ります。作業員の情報は協力会社から預かっている情報でもあるため、何に使うかを協力会社に伝えておくと、画面からの入力にも協力してもらいやすくなります。社内の決まりと契約の内容を確かめてから使い始めるのが確実です。
8. 進め方と、使える補助金
はじめからすべての書類を自動にしようとすると、準備に時間がかかります。いちばん枚数の多い作業員名簿から始め、台帳ができてから、ほかの書類へ広げていくのが確実です。
- 1段階目過去の作業員名簿を読み取り、作業員と資格の台帳をつくる
- 2段階目よく出す元請の書式で、名簿を台帳から出せるようにする
- 3段階目会社の体制や機械の届など、ほかの書類を足す
- 4段階目協力会社が自分で情報を入れる画面を用意する
費用は、扱う書類の種類と、台帳を自社のほかのしくみとつなぐかどうかで変わります。登録された既製のツールを使う場合と、自社の書類と現場の流れに合わせてつくる場合で、使える国の補助金が分かれます。
| 制度 | 向いている場合 | 補助の額と補助率 |
|---|---|---|
| デジタル化・AI導入補助金(通常枠) | 事務局に登録された既製のツールを使う | 5万〜450万円・1/2以内 |
| 中小企業省力化投資補助金(一般型) | 自社の書類と現場の流れに合わせてつくる | 従業員数により750万〜8,000万円・中小企業は1/2 |
どちらの制度も、交付の決定より前に契約や発注をしたものは対象になりません。公募の時期から逆算して計画を立てる必要があります。東海DX伴走室では、過去の書類を使った台帳づくりから、元請ごとの書式への対応、使い始めてからの手直しまでを一緒に進めています。
