Excelの生産管理から脱却するときの順番と、現場を止めない進め方
- 公式情報の確認日
- ✓Excelの生産管理の困りごとは、ファイル同士のつながりと「最新はどれか」に出る
- ✓脱却は、品目・工程などのマスタを整えるところから始め、受注、工程、実績の順に移す
- ✓現場の入力は今より増やさない。移行のあいだはExcelを「見るだけ」に変えていく
1. Excelの生産管理で起きていること
多品種少量の部品加工や、受注生産の多い工場では、生産管理をExcelで回している会社が少なくありません。受注の一覧、工程の予定表、材料の手配表、在庫の表、出荷の予定。どれも最初は1枚のシートから始まり、必要に応じて列やシートが増えてきたはずです。Excelは誰でも使えて、自社の業務に合わせて自由に形を変えられるため、生産管理の入り口としては理にかなった道具です。
Excelの生産管理でよく見かけるのは、受注の一覧を営業がつくり、それを見ながら製造の担当者が週ごとの工程表をつくり、購買の担当者が材料の手配表をつくる、という形です。それぞれの表はよくできていて、担当者本人にとっては使いやすいものになっています。困りごとが出てくるのは、ファイルとファイルの間です。受注の表から工程の表へ、工程の表から材料の手配へと、同じ品番や数量を何度も書き写すうちに、どこかで数字がずれます。担当者ごとに手元のコピーを持つようになると、どのファイルが最新なのかを確かめるだけで時間がかかります。
- ・同じ品番・数量を、受注・工程・手配の表に何度も書き写している
- ・ファイルのコピーが増え、どれが最新かを人に聞いて確かめている
- ・計算式やマクロをつくった人しか直せない
- ・納期の問い合わせに、表を何枚も開かないと答えられない
- ・誰かがファイルを開いていると、ほかの人が書き込めない
2. 脱却を急がなくてよい場合
Excelの生産管理から脱却すべきかどうかは、会社の規模や品目の数だけでは決まりません。生産管理を見ている人が1〜2人で、表の数も少なく、書き写しの手間がほとんどないなら、今のExcelを整えて使い続けるほうが合っていることもあります。反対に、担当者が何人もいて、同じ数字を何度も書き写しているなら、しくみに移すと手間が大きく減ります。
| 見るところ | Excelを整えて続ける | しくみに移す |
|---|---|---|
| 使う人 | 生産管理を見るのは1〜2人 | 営業・製造・購買など何人もが見る |
| 表のつながり | 表が少なく、書き写しがほとんどない | 受注から出荷まで、何度も書き写している |
| 直せる人 | 社内に計算式を直せる人がいる | つくった人しか直せない |
| 問い合わせへの答え | 1枚の表を見れば答えられる | 何枚も開いて、担当者に聞かないと答えられない |
| これからの変化 | 品目や取引先はあまり増えない | 品目や取引先、拠点が増えていく |
Excelを続けると決めた場合も、計算式やマクロの説明を残す、最新のファイルを置く場所を1か所に決める、品番の付け方をそろえる、といった整理をしておくと、あとでしくみに移すときにも役に立ちます。整理のあとも書き写しが減らないなら、そこで改めて脱却を考えれば十分です。
3. 脱却の順番は、マスタから
脱却でいちばん多い失敗は、画面をつくるところから始めてしまうことです。受注の画面、工程の画面と見た目を先に決めても、その下にある品目や工程のデータがそろっていなければ、結局Excelで補うことになります。順番は、マスタと呼ばれる「基本の台帳」を整えるところから始め、受注、工程、実績、在庫の順に、上流から移していくのが確実です。
- 01マスタを整える品目・工程・取引先・設備の台帳をそろえる
- 02受注を移す受注の入力を1か所にし、書き写しをなくす
- 03工程の予定を移す受注から工程の予定を自動でつくる
- 04実績を集める現場の着手・完了をその場で入れる
- 05在庫と出荷をつなぐ実績から在庫と出荷の予定を更新する
上流から移すのは、下流の表が上流の表の数字を書き写してつくられているからです。受注をしくみに移せば、工程の予定表にもその数字を自動で渡せます。反対に、下流から先に移すと、受注はExcel、工程はしくみ、という状態になり、書き写しがかえって増えることがあります。
4. 最初に整えるマスタ
マスタを整えるとは、同じものに同じ名前と番号を付けることです。Excelで長く管理してきた会社では、同じ部品が表によって別の名前で書かれていたり、図面の版が変わっても同じ品番のまま使われていたりします。このまましくみに移すと、同じ部品が2つあるように見えたり、集計が合わなかったりします。
| マスタ | 入れるもの | 確かめること |
|---|---|---|
| 品目 | 品番・品名・図面の版・材料 | 同じ部品に番号が2つ付いていないか |
| 工程 | 工程の名前・順番・標準の時間 | 担当者によって工程の呼び方が違わないか |
| 取引先 | 社名・担当者・納品先 | 略称と正式名が別々に登録されていないか |
| 設備 | 機械の名前・できる加工・稼働の時間 | 外注先に出す工程も含めているか |
工程の標準の時間は、最初から正確でなくてかまいません。まずは現場の感覚に近い値を入れておき、しくみに実績が集まってから直していきます。標準の時間が実績に近づくほど、工程の予定や納期の見通しが当たるようになります。マスタの整理は地道な作業ですが、ここを飛ばさないことが、脱却のあとでExcelに戻らないための条件になります。
- ・今あるExcelの表から品番と品名を全部抜き出し、1つの一覧に並べる
- ・同じものと思われる行に印を付け、製造と購買の担当者に確かめてもらう
- ・品番の付け方の決まりを文章にして、新しい品目からはその決まりで付ける
- ・図面の版が変わったときに、品番を変えるのか、版の欄を変えるのかを決める
この作業は、しくみの開発と並べて進められます。マスタの一覧は、最初はExcelでつくってかまいません。整った一覧は、そのまましくみへ取り込むもとになります。品目が多い会社では、よく動く品目から先に整え、何年も動いていない品目はあとに回すと、作業の量を抑えられます。
5. 現場の入力をどう変えるか
生産管理のしくみが役に立つかどうかは、現場の実績がどれだけ早く、正しく入るかで決まります。着手と完了の時刻、でき上がった数、不良の数。これらが紙の日報に書かれ、事務所で夕方にExcelへ入力しているうちは、しくみの画面に出る数字は常に半日遅れです。とはいえ、現場の入力を増やすと、作業の手が止まり、入力そのものが続かなくなります。
- 紙の日報に書き、夕方に事務所でExcelへ入力する
- 品番や工程名を手で書くので、書き方が人によって違う
- 実績が翌日にならないと表に出ない
- 作業票のコードを読み取り、着手と完了を押すだけ
- 品番と工程は選ぶだけで、書き方がそろう
- 実績がその場で工程の予定と在庫に反映される
現場の入力は、今の日報より手間を増やさないことを条件に設計します。作業票にコードを印刷しておき、タブレットやスマートフォンで読み取るだけにすれば、品番や工程名を書く手間がなくなります。入力する項目も、最初は着手・完了・数量の3つ程度に絞り、慣れてから不良の理由などを足していきます。現場の人が「前より楽になった」と感じられれば、入力は続きます。
6. 移行のあいだのExcelの扱い
脱却は、ある日を境にExcelを全部やめる形では進めません。受注をしくみに移しても、工程の予定はしばらくExcelで見る、という期間が必ずあります。この期間にExcelとしくみの両方に入力すると、どちらが正しいのかわからなくなり、脱却そのものが止まってしまいます。
- ・しくみに移した業務は、しくみを「正」とし、Excelには入力しない
- ・Excelで見たい表は、しくみから書き出して「見るだけ」に使う
- ・移していない業務のExcelは、置き場所を1か所に決めて残す
- ・移行の予定表をつくり、どの業務がいつしくみに移るかを社内で共有する
しくみから書き出したExcelを「見るだけ」に使う形にしておくと、Excelに慣れた社員も、今までどおりの見た目で数字を確かめられます。集計や分析にExcelを使うこと自体は、脱却のあとも問題ありません。大事なのは、入力の入り口を1つにすることです。入り口が1つになれば、書き写しと「最新はどれか」の確かめは、どちらもなくなります。
7. 脱却の効果をどう確かめるか
しくみに移したあと、効果が出ているかどうかを確かめる物差しを、移行の前に決めておきます。物差しがないと、「なんとなく楽になった」「前のほうが慣れていた」という感想だけが残り、次の業務を移すかどうかの判断ができません。物差しは、移行の前にも同じ方法で測っておき、前と後で比べられるようにします。
| 物差し | 測り方 | 見るとよい時期 |
|---|---|---|
| 書き写しの回数 | 受注1件の数字を、何回・何か所に書いているかを数える | 受注を移した直後 |
| 納期の問い合わせへの答え | 問い合わせから答えるまでに、何人に聞き、何枚の表を開いたか | 工程の予定を移したあと |
| 実績が表に出るまでの時間 | 作業が終わってから、画面に数字が出るまでの時間 | 現場の入力を変えたあと |
| 月末の集計 | 毎月の集計にかかる時間と、数字の直しの回数 | 移行から数か月たったころ |
物差しは多くしすぎず、移した業務ごとに1〜2つに絞ります。数字が良くなっていれば、同じやり方で次の業務へ進めます。良くなっていなければ、現場の入力が続いていないのか、マスタに揺れが残っているのかを確かめます。多くの場合、原因は画面の使いにくさか、マスタの整理の不足のどちらかにあります。使い始めてから数か月は、現場の声を集めて画面を直す期間と考えておくと、無理なく定着します。
- ・現場から「入れにくい」と言われた画面は、項目の数と並びから見直す
- ・集計が合わないときは、まずマスタに同じものが2つないかを確かめる
- ・Excelに戻って入力している人がいたら、戻る理由を聞いて画面に反映する
8. 脱却の費用を抑える制度
生産管理のしくみを入れる費用には、国の補助金が使える場合があります。既製の生産管理の道具を入れるのか、自社の工程に合わせてつくるのかで、合う制度が変わります。どちらも、交付の決定より前に契約や発注をしたものは対象にならないため、補助金を使う場合は発注の前に計画を立てます。
| 制度 | 向いている入れ方 | 主な内容 |
|---|---|---|
| デジタル化・AI導入補助金(通常枠) | 事務局に登録された既製の道具を入れる | 5万円〜450万円(業務プロセスの数による)・補助率1/2以内(最低賃金近傍の事業者は2/3以内) |
| 中小企業省力化投資補助金(一般型) | 自社の工程に合わせてつくる | 上限は従業員数により750万円〜8,000万円・中小企業の補助率1/2(特例で2/3) |
デジタル化・AI導入補助金の2026年度の1次締切は9月29日で、2次以降の日程は確認した時点で公表されていませんでした。省力化投資補助金の第8回は9月18日に受付が始まり、締切は公表されていませんでした。省力化投資補助金は、生産性と賃金を上げる事業計画が必要で、導入したあとも目標の達成状況を報告します。東海DX伴走室では、マスタの整理から、しくみの設計と開発、現場の入力画面づくり、使い始めてからの手直しまでを一緒に進めています。
