東海DX伴走室
業務システム

Excelの生産管理から脱却するときの順番と、現場を止めない進め方

公開  約11分で読めます
公式情報の確認日
この記事の要点
  • ✓Excelの生産管理の困りごとは、ファイル同士のつながりと「最新はどれか」に出る
  • ✓脱却は、品目・工程などのマスタを整えるところから始め、受注、工程、実績の順に移す
  • ✓現場の入力は今より増やさない。移行のあいだはExcelを「見るだけ」に変えていく

1. Excelの生産管理で起きていること

多品種少量の部品加工や、受注生産の多い工場では、生産管理をExcelで回している会社が少なくありません。受注の一覧、工程の予定表、材料の手配表、在庫の表、出荷の予定。どれも最初は1枚のシートから始まり、必要に応じて列やシートが増えてきたはずです。Excelは誰でも使えて、自社の業務に合わせて自由に形を変えられるため、生産管理の入り口としては理にかなった道具です。

Excelの生産管理でよく見かけるのは、受注の一覧を営業がつくり、それを見ながら製造の担当者が週ごとの工程表をつくり、購買の担当者が材料の手配表をつくる、という形です。それぞれの表はよくできていて、担当者本人にとっては使いやすいものになっています。困りごとが出てくるのは、ファイルとファイルの間です。受注の表から工程の表へ、工程の表から材料の手配へと、同じ品番や数量を何度も書き写すうちに、どこかで数字がずれます。担当者ごとに手元のコピーを持つようになると、どのファイルが最新なのかを確かめるだけで時間がかかります。

  • ・同じ品番・数量を、受注・工程・手配の表に何度も書き写している
  • ・ファイルのコピーが増え、どれが最新かを人に聞いて確かめている
  • ・計算式やマクロをつくった人しか直せない
  • ・納期の問い合わせに、表を何枚も開かないと答えられない
  • ・誰かがファイルを開いていると、ほかの人が書き込めない
ポイントこれらは、Excelが悪いのではなく、Excelで扱う範囲が広がりすぎたことの表れです。脱却の目的は、Excelをやめることではなく、書き写しと確かめの手間をなくすことに置きます。

2. 脱却を急がなくてよい場合

Excelの生産管理から脱却すべきかどうかは、会社の規模や品目の数だけでは決まりません。生産管理を見ている人が1〜2人で、表の数も少なく、書き写しの手間がほとんどないなら、今のExcelを整えて使い続けるほうが合っていることもあります。反対に、担当者が何人もいて、同じ数字を何度も書き写しているなら、しくみに移すと手間が大きく減ります。

表1 Excelを整えて使い続けるか、しくみに移すかの目安
見るところExcelを整えて続けるしくみに移す
使う人生産管理を見るのは1〜2人営業・製造・購買など何人もが見る
表のつながり表が少なく、書き写しがほとんどない受注から出荷まで、何度も書き写している
直せる人社内に計算式を直せる人がいるつくった人しか直せない
問い合わせへの答え1枚の表を見れば答えられる何枚も開いて、担当者に聞かないと答えられない
これからの変化品目や取引先はあまり増えない品目や取引先、拠点が増えていく
出典:東海DX伴走室編集部の整理

Excelを続けると決めた場合も、計算式やマクロの説明を残す、最新のファイルを置く場所を1か所に決める、品番の付け方をそろえる、といった整理をしておくと、あとでしくみに移すときにも役に立ちます。整理のあとも書き写しが減らないなら、そこで改めて脱却を考えれば十分です。

3. 脱却の順番は、マスタから

脱却でいちばん多い失敗は、画面をつくるところから始めてしまうことです。受注の画面、工程の画面と見た目を先に決めても、その下にある品目や工程のデータがそろっていなければ、結局Excelで補うことになります。順番は、マスタと呼ばれる「基本の台帳」を整えるところから始め、受注、工程、実績、在庫の順に、上流から移していくのが確実です。

図1 Excelの生産管理から脱却する順番
  1. 01マスタを整える品目・工程・取引先・設備の台帳をそろえる
  2. 02受注を移す受注の入力を1か所にし、書き写しをなくす
  3. 03工程の予定を移す受注から工程の予定を自動でつくる
  4. 04実績を集める現場の着手・完了をその場で入れる
  5. 05在庫と出荷をつなぐ実績から在庫と出荷の予定を更新する
会社によっては、在庫や出荷から先に困っていることもあります。その場合も、マスタを整えることは最初に行います。

上流から移すのは、下流の表が上流の表の数字を書き写してつくられているからです。受注をしくみに移せば、工程の予定表にもその数字を自動で渡せます。反対に、下流から先に移すと、受注はExcel、工程はしくみ、という状態になり、書き写しがかえって増えることがあります。

ポイント一度に全部の業務を移そうとすると、準備に時間がかかり、現場の負担も重なります。1つの業務を移して落ち着いてから次へ進むほうが、結果として早く脱却できます。繁忙期や年度末の切り替えも避けます。

4. 最初に整えるマスタ

マスタを整えるとは、同じものに同じ名前と番号を付けることです。Excelで長く管理してきた会社では、同じ部品が表によって別の名前で書かれていたり、図面の版が変わっても同じ品番のまま使われていたりします。このまましくみに移すと、同じ部品が2つあるように見えたり、集計が合わなかったりします。

表2 生産管理で整えるマスタと、確かめること
マスタ入れるもの確かめること
品目品番・品名・図面の版・材料同じ部品に番号が2つ付いていないか
工程工程の名前・順番・標準の時間担当者によって工程の呼び方が違わないか
取引先社名・担当者・納品先略称と正式名が別々に登録されていないか
設備機械の名前・できる加工・稼働の時間外注先に出す工程も含めているか
出典:東海DX伴走室編集部の整理

工程の標準の時間は、最初から正確でなくてかまいません。まずは現場の感覚に近い値を入れておき、しくみに実績が集まってから直していきます。標準の時間が実績に近づくほど、工程の予定や納期の見通しが当たるようになります。マスタの整理は地道な作業ですが、ここを飛ばさないことが、脱却のあとでExcelに戻らないための条件になります。

  • ・今あるExcelの表から品番と品名を全部抜き出し、1つの一覧に並べる
  • ・同じものと思われる行に印を付け、製造と購買の担当者に確かめてもらう
  • ・品番の付け方の決まりを文章にして、新しい品目からはその決まりで付ける
  • ・図面の版が変わったときに、品番を変えるのか、版の欄を変えるのかを決める

この作業は、しくみの開発と並べて進められます。マスタの一覧は、最初はExcelでつくってかまいません。整った一覧は、そのまましくみへ取り込むもとになります。品目が多い会社では、よく動く品目から先に整え、何年も動いていない品目はあとに回すと、作業の量を抑えられます。

5. 現場の入力をどう変えるか

生産管理のしくみが役に立つかどうかは、現場の実績がどれだけ早く、正しく入るかで決まります。着手と完了の時刻、でき上がった数、不良の数。これらが紙の日報に書かれ、事務所で夕方にExcelへ入力しているうちは、しくみの画面に出る数字は常に半日遅れです。とはいえ、現場の入力を増やすと、作業の手が止まり、入力そのものが続かなくなります。

図2 現場の実績の集め方
導入前
  • 紙の日報に書き、夕方に事務所でExcelへ入力する
  • 品番や工程名を手で書くので、書き方が人によって違う
  • 実績が翌日にならないと表に出ない
導入後
  • 作業票のコードを読み取り、着手と完了を押すだけ
  • 品番と工程は選ぶだけで、書き方がそろう
  • 実績がその場で工程の予定と在庫に反映される

現場の入力は、今の日報より手間を増やさないことを条件に設計します。作業票にコードを印刷しておき、タブレットやスマートフォンで読み取るだけにすれば、品番や工程名を書く手間がなくなります。入力する項目も、最初は着手・完了・数量の3つ程度に絞り、慣れてから不良の理由などを足していきます。現場の人が「前より楽になった」と感じられれば、入力は続きます。

6. 移行のあいだのExcelの扱い

脱却は、ある日を境にExcelを全部やめる形では進めません。受注をしくみに移しても、工程の予定はしばらくExcelで見る、という期間が必ずあります。この期間にExcelとしくみの両方に入力すると、どちらが正しいのかわからなくなり、脱却そのものが止まってしまいます。

  • ・しくみに移した業務は、しくみを「正」とし、Excelには入力しない
  • ・Excelで見たい表は、しくみから書き出して「見るだけ」に使う
  • ・移していない業務のExcelは、置き場所を1か所に決めて残す
  • ・移行の予定表をつくり、どの業務がいつしくみに移るかを社内で共有する

しくみから書き出したExcelを「見るだけ」に使う形にしておくと、Excelに慣れた社員も、今までどおりの見た目で数字を確かめられます。集計や分析にExcelを使うこと自体は、脱却のあとも問題ありません。大事なのは、入力の入り口を1つにすることです。入り口が1つになれば、書き写しと「最新はどれか」の確かめは、どちらもなくなります。

注意マクロで自動化していた作業は、棚卸しのときに一覧にしておきます。移行のあとに「毎月の集計が出なくなった」と気づくことがあるためです。

7. 脱却の効果をどう確かめるか

しくみに移したあと、効果が出ているかどうかを確かめる物差しを、移行の前に決めておきます。物差しがないと、「なんとなく楽になった」「前のほうが慣れていた」という感想だけが残り、次の業務を移すかどうかの判断ができません。物差しは、移行の前にも同じ方法で測っておき、前と後で比べられるようにします。

表3 Excelからの脱却の効果を確かめる物差しの例
物差し測り方見るとよい時期
書き写しの回数受注1件の数字を、何回・何か所に書いているかを数える受注を移した直後
納期の問い合わせへの答え問い合わせから答えるまでに、何人に聞き、何枚の表を開いたか工程の予定を移したあと
実績が表に出るまでの時間作業が終わってから、画面に数字が出るまでの時間現場の入力を変えたあと
月末の集計毎月の集計にかかる時間と、数字の直しの回数移行から数か月たったころ
出典:東海DX伴走室編集部の整理

物差しは多くしすぎず、移した業務ごとに1〜2つに絞ります。数字が良くなっていれば、同じやり方で次の業務へ進めます。良くなっていなければ、現場の入力が続いていないのか、マスタに揺れが残っているのかを確かめます。多くの場合、原因は画面の使いにくさか、マスタの整理の不足のどちらかにあります。使い始めてから数か月は、現場の声を集めて画面を直す期間と考えておくと、無理なく定着します。

  • ・現場から「入れにくい」と言われた画面は、項目の数と並びから見直す
  • ・集計が合わないときは、まずマスタに同じものが2つないかを確かめる
  • ・Excelに戻って入力している人がいたら、戻る理由を聞いて画面に反映する

8. 脱却の費用を抑える制度

生産管理のしくみを入れる費用には、国の補助金が使える場合があります。既製の生産管理の道具を入れるのか、自社の工程に合わせてつくるのかで、合う制度が変わります。どちらも、交付の決定より前に契約や発注をしたものは対象にならないため、補助金を使う場合は発注の前に計画を立てます。

表4 生産管理のしくみに使える可能性のある国の補助金
制度向いている入れ方主な内容
デジタル化・AI導入補助金(通常枠)事務局に登録された既製の道具を入れる5万円〜450万円(業務プロセスの数による)・補助率1/2以内(最低賃金近傍の事業者は2/3以内)
中小企業省力化投資補助金(一般型)自社の工程に合わせてつくる上限は従業員数により750万円〜8,000万円・中小企業の補助率1/2(特例で2/3)
出典:中小企業基盤整備機構「デジタル化・AI導入補助金2026」「中小企業省力化投資補助金(一般型)」公式ページ(2026年9月25日確認)

デジタル化・AI導入補助金の2026年度の1次締切は9月29日で、2次以降の日程は確認した時点で公表されていませんでした。省力化投資補助金の第8回は9月18日に受付が始まり、締切は公表されていませんでした。省力化投資補助金は、生産性と賃金を上げる事業計画が必要で、導入したあとも目標の達成状況を報告します。東海DX伴走室では、マスタの整理から、しくみの設計と開発、現場の入力画面づくり、使い始めてからの手直しまでを一緒に進めています。

9. よくあるご質問

Q
Excelは完全にやめないといけませんか?
A
いいえ。入力の入り口をしくみに1つにまとめれば、集計や分析にExcelを使い続けてかまいません。
Q
現場にパソコンがなくても使えますか?
A
はい。タブレットやスマートフォンで作業票のコードを読み取る形にすれば、現場にパソコンを置く必要はありません。
Q
どれくらいの期間がかかりますか?
A
品目や工程の数、移す業務の範囲で変わります。マスタの整理と受注の移行から始め、業務ごとに順に移していきます。1つの業務が落ち着いてから次へ進むため、途中で止めて様子を見ることもできます。
編集部
この記事を書いた人
東海DX伴走室編集部
東海4県の製造業・建設業のDXを支援しています。制度の内容は、公開日時点の公的機関の資料をもとにしています。
まずは30分、
無料でご相談ください
売り込みはしません。つくらないほうがよい場合は、そうお伝えします。
フォームで相談する(無料)
訪問でも、オンラインでも伺います。