AI-OCRの読み取り間違いを確認する手順|人が見る所を絞るコツ
- ✓全項目を紙と見比べる確認では、AI-OCRを入れても手入力の時間が確認の時間に置き換わるだけで、手間はほとんど減りません。
- ✓間違いやすい金額・品番・日付に目を集め、合計や数量×単価の計算で照合すると、見るべき所を機械的に拾い出せます。
- ✓自信の低い項目だけを人に回すしくみと、間違いの記録を組み合わせ、確認する範囲を段階的に狭めていくのが現実的な進め方です。
AI-OCRで注文書や請求書を読み取るようにしたのに、結局は読み取った結果を元の紙と1項目ずつ見比べている。そんな声を、製造業・建設業の事務の方からよく聞きます。読み取り間違いが怖いので全部見る、という判断は自然です。ただ、全部見ているかぎり、手で打つ時間が目で見る時間に置き換わっただけで、事務の負担はあまり軽くなりません。この記事では、AI-OCRの読み取り間違いをどう確認すれば、見落としを増やさずに人が見る所を絞れるのかを、順番に説明します。
1. 全項目を目で見ていると、AI-OCRを入れても手間が減らない理由
AI-OCRは、FAXやスキャンした書類の文字を読み取り、決められた欄にデータとして入れてくれます。とはいえ、かすれたFAX、斜めに傾いた紙、手書きの追記、はんこが文字に重なった箇所などでは、どうしても読み違いが出ます。読み違いがゼロにならない以上、どこかで人の確認は必要です。問題は、その確認を「全項目・全枚数」でやってしまうことです。
- ・紙と画面を行き来する目の動きが多く、手入力より疲れるという人もいる
- ・正しく読めている項目まで見るので、確認の時間が読み取りの精度に関係なく一定になる
- ・全部を見ているつもりでも、慣れてくると流し見になり、肝心の数字を見落とす
- ・確認する人が「結局自分で打った方が早い」と感じ、AI-OCRを使わなくなる
特に最後の点は見過ごせません。全項目の確認が続くと、現場では「AI-OCRは手間が増えただけ」という評価になり、せっかく入れたしくみが止まってしまいます。確認を絞る目的は、楽をすることだけではありません。人の注意を、間違えると本当に困る所に集めることで、見落としそのものを減らすことにもあります。
2. 読み取り間違いが起きやすい項目と、起きにくい項目
最初にやることは、自社の書類の項目を「間違えると困る度合い」と「間違いやすさ」で仕分けることです。注文書や請求書の項目は、どれも同じ重さではありません。会社名の読み違いは取引先の一覧と突き合わせればすぐ直せますが、金額や品番の読み違いは、そのまま請求や出荷の間違いにつながります。下の表は、製造業・建設業の注文書・請求書でよく出る読み取り間違いと、確認のしかたを整理したものです。
| 項目 | よくある読み間違い | 確認のしかた |
|---|---|---|
| 金額・単価 | 桁の読み落とし、カンマと点の取り違え、6と8・1と7の混同 | 合計との照合で計算が合うかを機械で確かめ、合わない書類だけ人が見る |
| 品番・型番 | 英字のOと数字の0、Iと1、ハイフンの有無 | 品番の一覧と突き合わせ、一覧に無い品番だけ人が見る |
| 日付・納期 | 年の書き方の違い(和暦と西暦)、月と日の入れ替わり | 受注日より前の納期、休日の納期など、ありえない日付だけ人が見る |
| 数量・単位 | 単位の欄の読み落とし(個・箱・m)、手書きの訂正 | 数量×単価と金額を照合し、単位は品番ごとの標準単位と比べる |
| 取引先名・住所 | 略称、旧社名、かすれ | 取引先の一覧と照らし合わせて自動で正式名に置き換える |
| 手書きの追記・備考 | 走り書き、矢印や二重線での訂正 | 追記がある書類は読み取りに頼らず、人が画像を見て判断する |
金額・品番・日付の3つに目を集める
表のうち、間違えたときの影響が大きく、しかも読み違いが出やすいのが金額・品番・日付です。金額は請求や支払いに直結し、品番は違う部品の出荷や手配を招き、日付は納期遅れや工程の組み違いにつながります。逆に、取引先名や住所は一覧との照合で直せることが多く、人がじっくり見る必要はあまりありません。まずは「人が必ず見るのはこの3つ」と決め、それ以外は後で説明する照合や自信の値に任せる、という線を引いてください。
自社の書類で、どこが読みにくいかを知る
一般的な傾向に加えて、自社に届く書類ならではの癖があります。特定の取引先のFAXだけ文字がつぶれる、品番の欄が狭くて文字が重なる、手書きの注文書を送ってくる取引先が決まっている、といった具合です。導入の最初の時期は、どの取引先のどの欄で間違いが出たかを記録しておくと、確認を重くする所と軽くする所がはっきりします。記録のしかたは後の節で説明します。
3. 合計と照合して、計算で読み取り間違いを見つける
注文書や請求書の数字には、たいてい計算の関係があります。明細の数量×単価が金額になり、明細の金額を足すと小計になり、小計に消費税を足すと合計になります。この関係を使えば、人が数字を1つずつ見なくても、計算が合っているかどうかで読み取り間違いを見つけられます。たとえば単価の桁を読み落としていれば、明細の金額と合わなくなります。計算が合っている書類は、金額まわりの読み取りがほぼ正しいと判断できます。
- 01明細ごとに数量×単価を計算読み取った数量と単価を掛け、読み取った金額と同じかを確かめる。合わない明細に印をつける
- 02明細の合計と小計を比べる明細の金額を足し上げ、書類に書かれた小計と一致するかを確かめる
- 03小計と消費税と合計を比べる小計に消費税を足して合計と一致するか、税率の区分が品目に合っているかを確かめる
- 04すべて合えば金額は確認済みに計算が合った書類は、金額の欄を人が見なくてよい扱いにする
- 05合わない書類だけ人に回すどの段で合わなかったかを画面に表示し、該当する行と元の画像を並べて人が直す
照合で見つけられない間違いもある
合計との照合は強力ですが、万能ではありません。数量と金額の両方を同じように読み違えた場合や、元の書類そのものが計算違いをしている場合は、照合だけでは判断できません。また、品番や日付には計算の関係がないため、照合では確かめられません。品番は自社の品番の一覧や、取引先ごとの過去の注文と突き合わせる、日付は受注日より前の納期や、ありえない月日を弾く、といった別の確かめ方を組み合わせます。
- ・品番:自社の品番の一覧に無いものだけ人が見る
- ・品番:その取引先が過去に注文したことのない品番は念のため人が見る
- ・日付:受注日より前、または極端に先の納期は人が見る
- ・日付:和暦と西暦が混じる取引先は、年の欄を必ず人が見る
- ・数量:その取引先のふだんの注文量から大きく外れたものは人が見る
4. 自信の低い項目だけを人が見るしくみ
多くのAI-OCRは、読み取った文字ごとに「どれくらい自信を持って読めたか」を表す値を出します。信頼度や確信度と呼ばれるものです。くっきり印字された文字は自信が高く、かすれた文字や手書きの文字は自信が低く出ます。この値を使い、自信が一定より低い項目だけを人の確認に回せば、きれいに読めた項目を見る時間が省けます。全項目を見る確認から、印のついた項目だけを見る確認へ切り替える要がここです。
- 届いた書類をすべて読み取り結果の画面で開く
- 紙と画面を並べ、全項目を上から順に見比べる
- 金額は電卓で検算し直す
- 品番は品番の一覧を別に開いて探す
- 間違いを直しても、どこで間違えたかは残らない
- 計算が合い、自信も高い書類はそのまま登録へ進む
- 人が開くのは印のついた書類だけ
- 画面には自信の低い項目と計算が合わない行だけが色付きで出る
- 品番の一覧に無い品番は自動で警告が出る
- 直した内容は記録され、次の設定の見直しに使う
自信の値は項目ごとに基準を変える
自信の値の基準を全項目同じにすると、うまくいきません。備考欄のように多少違っても困らない項目と、金額のように1文字違うだけで困る項目では、求める確かさが違うからです。金額・品番・日付は基準を厳しくして少しでも怪しければ人に回し、取引先名や備考は基準をゆるくする、というように項目ごとに設定します。使いはじめは全体を厳しめにしておき、記録を見ながらゆるめていく順番が安全です。
5. 確認画面のつくりと、人が見る順番を決める
見る所を絞っても、確認する画面が使いにくいと手間は残ります。紙を手元に置いて画面と見比べるやり方では、目線が行き来して時間がかかります。確認する人が迷わず、短い時間で判断できる画面にしておくと、絞った効果がそのまま表れます。画面に求めたい条件は次のとおりです。
- ・読み取った値のすぐ横に、元の書類のその部分の画像が切り抜いて表示される
- ・確認が必要な項目だけ色が変わり、確認不要の項目は目立たない
- ・計算が合わない行は、どの計算が合わなかったかが一言で分かる
- ・直した値は、その場で計算を自動でやり直してくれる
- ・確認済みの印を押すと、次の要確認の書類へすぐ進める
- 01手書きの追記の有無を見る追記や訂正の印がある書類は、読み取り結果より画像を優先して全体を見る
- 02計算が合わない行を直す合計との照合で印がついた行を、画像と見比べて直す
- 03品番の警告を確かめる一覧に無い品番が本当に新しい品番か、読み違いかを判断する
- 04日付の警告を確かめる納期や年の欄の印を見て、必要なら取引先の過去の書類と比べる
- 05自信の低い残りの項目を見る上で見なかった項目のうち、色のついたものだけを確かめて確認済みにする
順番を決めておくと、確認する人によって見方がばらつきません。新しく担当になった人でも同じ手順で確認でき、ベテランの事務員が休んだ日でも受注の入力が止まりにくくなります。手順は紙1枚にまとめ、確認する席の近くに貼っておくと定着が早まります。
6. 間違いの記録を残して、確認する範囲を少しずつ狭める
確認を絞る設定は、一度決めたら終わりではありません。どこで間違いが出て、どこで出なかったかを記録し、その記録を見て基準を見直すことで、人が見る範囲を安心して狭めていけます。記録といっても、確認画面で直した内容が自動で残るようにしておけば、事務の方が別に書き留める必要はありません。残しておきたい情報は下の表のとおりです。
| 残す情報 | 中身 | 見直しでの使い道 |
|---|---|---|
| 書類の送り主 | どの取引先から届いた書類か | 読み違いの多い取引先だけ確認を重くする |
| 項目名 | どの欄を直したか | 間違いの出ない欄は自信の基準をゆるめる |
| 直す前と後の値 | 読み取った値と正しい値 | Oと0のような決まった読み違いを自動で直す規則をつくる |
| 見つけたきっかけ | 計算の不一致・自信の低さ・人の目のどれか | 照合や自信の値で拾えなかった間違いを洗い出す |
| 書類の状態 | FAXのかすれ、傾き、手書き | 取引先に送り方の改善をお願いする材料にする |
「人の目で見つけた間違い」が一番の手がかり
記録のなかで特に注目したいのは、計算の照合でも自信の値でも拾えず、人がたまたま気づいた間違いです。これは、絞った後の確認では見落とされるかもしれない種類の間違いだからです。こうした間違いが出た項目や取引先は、確認を重くする側に戻します。反対に、しばらく間違いが出ていない項目は、人が見る対象から外す候補になります。下の進め方は、導入からの時期ごとの目安です。
- 使いはじめの時期全項目を確認しながら、直した内容をすべて記録する。自信の基準は全項目で厳しめに置く
- 記録がたまってきた時期取引先ごと・項目ごとの間違いの出方を見て、金額・品番・日付以外の項目の確認を外していく
- 照合の規則が固まった時期計算が合い、自信も高い書類は人が開かずに登録する運用に切り替える
- 定期の見直し人の目で見つけた間違いを振り返り、基準を厳しくする所とゆるめる所を決め直す
- 取引先や書式が変わったとき新しい書式は使いはじめの時期と同じく全項目の確認に戻し、記録を取り直す
7. 確認を絞りはじめる前に、社内で決めておくこと
人が見る所を絞るということは、言いかえれば、人が見ない所で間違いが出たときの扱いを先に決めておくということです。ここがあいまいなまま確認を減らすと、間違いが一度出ただけで「やはり全部見ないと危ない」と元に戻ってしまいます。経営者や工場長・工事部長と事務の責任者のあいだで、次の点をそろえておいてください。
- ・人が必ず見る項目(金額・品番・日付など)と、計算や一覧の照合に任せる項目の線引き
- ・確認を省いた項目で間違いが見つかったとき、誰に知らせ、どう直すか
- ・出荷や発注の前に、別の工程でもう一度数字を目にする場面があるか
- ・新しい取引先や書式が来たときに、全項目の確認に戻す決まり
- ・確認の基準を見直す時期と、見直しを決める人
3つめの点は見落とされがちです。たとえば受注の入力のあとに、出荷の指示書を現場の担当者が見る、請求書の入力のあとに支払いの承認で上長が金額を見る、といった流れがあれば、そこが後ろの守りになります。後ろの守りがある項目は、入力の段階での確認を軽くしやすくなります。反対に、入力した値がそのまま取引先に出ていく項目は、入力の段階で厳しく見る必要があります。
8. 明日から自社で始める、確認の絞り込みの第一歩
いきなり設定を変える必要はありません。まずは今の確認作業のなかで、何をどれだけ直しているかを知るところから始めます。今の書類とAI-OCRの設定のままでも、次の作業はすぐに取りかかれます。
- ・届く書類の種類と、取引先ごとの書式を一覧にする
- ・書類ごとに、間違えると困る項目に印をつける(多くは金額・品番・日付)
- ・しばらくのあいだ、確認で直した項目と取引先を簡単に記録する
- ・使っているAI-OCRが自信の値を出せるか、照合の規則を組めるかを確かめる
- ・品番の一覧と取引先の一覧が、照合に使える形で整っているかを確かめる
この5つがそろうと、どの項目を人が見て、どの項目を照合や自信の値に任せられるかが、自社の書類にもとづいて判断できるようになります。全部を見る確認から、印のついた所だけを見る確認へ。読み取り間違いをゼロにするのではなく、間違いを確実に拾える所に人の目を置くことで、AI-OCRの手間を本当に減らせます。
