Excelマクロを作った人が退職したら?引き継ぎと作り直しの判断の目安
- ✓マクロの中身が読めなくても、何を入れて何が出てくるかは外から書き出せます。押す前と押した後のコピーを比べ、壊れやすい前提を見つけます。
- ✓引き継ぎ資料は立派な文書より、操作の録画、止まったときの手作業の手順、マクロに埋まった業務の決まりの書き出しを優先します。
- ✓説明できる人がいて直す所がはっきりしていれば延命、直すたびに別の所が壊れ、複数人で使いたいなら作り直しを考えます。
1. 作った人がいなくなると、マクロは中の見えない箱になる
Excelのマクロは、作った人の頭の中にある手順を、そのまま書き写したものです。受注の一覧から出荷指示書をつくる、日報を集計して月末の工数表に並べる、請求のデータを会計ソフトに取り込める形に直す。こうした作業をボタン1つで終わらせてくれる一方で、何をどの順番で処理しているのかは、画面を見ても分かりません。作った人が社内にいるあいだは「なんか変だよ」と声をかければ直してもらえたため、説明書が無くても困りませんでした。退職や異動でその人がいなくなると、毎日押しているボタンの中身を誰も説明できない状態だけが残ります。
- ・月末や期末にしか使わない集計マクロが、退職後に初めて動かした日に止まる
- ・取引先が増えた、品番の桁が変わったなど、入力の形が少し変わった途端に結果がずれる
- ・エラーの画面が出ても意味が分からず、「終了」を押して手作業でやり直すしかない
- ・パスワードで保護されていて、中身を開くことすらできない
- ・パソコンやExcelを入れ替えたら、昨日まで動いていたボタンが反応しなくなった
止まってくれるなら、まだ気づけます。厄介なのは、動いているように見えて結果が間違っている場合です。たとえば集計の範囲が作った当時の行数で決め打ちになっていると、データが増えた分だけ黙って抜け落ちます。請求額や出荷数に関わるマクロでこれが起きると、取引先から指摘されるまで誰も気づきません。だからこそ、退職が決まった時点、あるいは退職に気づいた時点で、壊れる前に今の姿を確かめておく必要があります。
2. まず確かめること① そのマクロは何をしているか
最初にやることは、直すことでも作り直しを決めることでもなく、今の姿を書き出すことです。マクロの中身(プログラムの文字)を読める人が社内にいなくても、外から見て分かることはたくさんあります。総務や事務の担当者だけで進められる順番で並べると、次のようになります。
- 01マクロ入りのファイルを洗い出す共有フォルダや各自のパソコンで、ボタンが付いているファイルや、開くと「コンテンツの有効化」が出るファイルを探し、置き場所・使う人・使う頻度を一覧にします。
- 02原本をコピーして別の場所に保管する調べる作業はすべてコピーで行います。ファイル名に日付を付け、原本とは別のフォルダに置きます。
- 03押す前と押した後を比べるどのシートのどの列が変わったか、新しくできたファイルはあるか、印刷やメールが出るかを、押す前と押した後のコピーを並べて記録します。
- 04使っている人に聞く押す前に何を準備しているか、押した後に何を確かめているかを、担当者の席で実際にやってもらいながら聞き取ります。
- 05つながり先を書く読み込んでいる別のファイル、書き出す先のフォルダ、取り込み先の販売や会計のソフトを書き出します。
書き出した内容は、マクロ1本ごとに次の表の形でまとめておくと、後で直す人にも、作り直しを頼む相手にも、そのまま渡せます。全部の欄が埋まらなくても構いません。分からない欄が残ること自体が、危ない所の目印になります。
| 調べる項目 | 書き出す内容 | 確かめ方 |
|---|---|---|
| 何を入れるか | 元になるシート、読み込む別ファイル、手で貼り付けるデータ | 担当者が押す前に準備しているものを横で見る |
| 何が出てくるか | 書き換わる列、新しくできるファイル、印刷物やメール | 押す前と押した後のコピーを並べて比べる |
| いつ使うか | 毎日、毎週、月末、期末、年1回など | 担当者に聞き、使う日を予定表に書き込む |
| 誰が使うか | 担当者と、代わりに押せる人 | 代わりの人がいなければ、いないと書く |
| どこにつながるか | 別のExcel、販売や会計のソフト、取引先への送付 | 保存先のフォルダや送り先を記録する |
| 止まったらどうするか | 今の逃げ道になっている手作業の手順 | 一度、手作業で同じ結果を作ってみる |
3. まず確かめること② どこで壊れるか
何をしているかが分かったら、次は「何が変わると壊れるか」を確かめます。マクロは作った時点の前提で書かれていて、その前提が崩れたところで止まるか、黙って間違えます。よくある前提は次のとおりです。中身を読める人がいれば、これらがプログラムの中に直接書かれていないかを見てもらいます。
- ・ファイルの置き場所やファイル名が決め打ちになっている(フォルダ名を変えると動かない)
- ・シート名や列の位置が固定されている(列を1つ足すと、隣の列の値を読んでしまう)
- ・集計する行の範囲が、作った当時のデータ量で決まっている
- ・取引先名や品番、単価の一覧がマクロの中に直接書き込まれている
- ・作った人のパソコンにしかない設定や、その人の個人フォルダを読みに行っている
- ・保存のときに上書きして、元のデータが残らない作りになっている
中身を読める人がいなくても、試し方で当たりはつけられます。コピーしたファイルを、作った人とは別のパソコン、別の人のログインで動かしてみる。データを少しだけ変えて動かしてみる。取引先を1件足す、品番の桁を変える、行数をいつもより増やす、といった変化です。そのたびに、結果を手計算や前月の実績と突き合わせます。止まった所、数字が合わなかった所が、この先いちばん先に壊れる場所です。
4. 引き継ぎ資料の残し方 本人がいるうちに押さえること
これから退職や異動が決まる人がマクロを作っている場合は、本人がいるうちが唯一の機会です。業務全体の引き継ぎ表とは別に、マクロのための引き継ぎを段取りしておきます。退職の前は本人も忙しく、最終週にまとめて説明してもらう形では、月末にしか起きない問題を見逃します。
- 退職の話が出たらマクロ入りファイルの一覧づくりを本人に頼み、後任を決める。業務の引き継ぎ表とは分けて作る
- 引き継ぎの序盤本人がボタンを押す様子を後任が横で見て、画面を録画する。押す前の準備と押した後の確認も撮る
- 引き継ぎの中盤後任が自分で押し、本人は口を出さずに見る。つまずいた所をその場で資料に書き足す
- 月末・期末をまたぐ時期月末や期末にしか使わない処理を、一度は後任が本人の前で回す
- 最終出社の前パスワード、読みに行っているフォルダ、退職後に質問してよいかどうかと連絡の方法を確認する
資料そのものを立派な文書にしようとすると、書き上がらないまま最終日を迎えます。優先するのは、後任が明日から困らないための材料です。残すものは次のとおりです。
- ・前の章の表(何を入れて何が出るか、いつ誰が使うか、どこにつながるか)
- ・操作の録画と、画面の写真を貼った手順書
- ・止まったときに手作業で同じ結果を出す手順
- ・処理のまとまりごとに一言ずつの説明(本人に書いてもらう)
- ・パスワードと保管場所(管理者が預かり、個人のメモに残さない)
- ・これまでに直した記録(いつ、誰が、何のために、どこを)
すでに作った人が退職している場合は、順番を逆にします。まず前の章の表を社内で作り、手作業で同じ結果が出せるかを確かめます。そのうえで、どうしても分からない点だけを質問の一覧にまとめます。退職した人に連絡が取れるなら、了承を得たうえで、その一覧を一度にまとめて聞きます。思いついたたびに電話をかけると、相手の負担になり、答えてもらえなくなります。
5. 修正で延命するか、作り直すかの判断の目安
調べた結果をもとに、今のマクロを直して使い続けるか、作り直すかを決めます。延命が悪いわけではありません。処理が単純で、直す所がはっきりしているなら、手を入れて使い続けるほうが早く、現場も混乱しません。一方で、直すたびに別の所が壊れる、誰も説明できない、という状態で延命を続けると、担当者が替わるたびに同じ騒ぎを繰り返します。目安は次の表のとおりです。
| 見るところ | 修正で延命しやすい | 作り直しを考える |
|---|---|---|
| 中身の分かり方 | 処理の流れを説明できる人が社内にいる | 誰も説明できず、読み解くだけで手間がかかる |
| 壊れ方 | 置き場所や列の位置など、直す所がはっきりしている | 直すたびに別の所が壊れる |
| 使う人 | 担当者がひとりかふたりで、自分の席で使う | 複数の人が同じファイルを同時に開きたがる |
| つながり | 1つのファイルの中で完結している | 別のファイルを何本も読み書きし、手で貼り付ける作業が挟まる |
| 業務の変化 | この先も手順が大きく変わらない | 取引先・品番・拠点が増え、決まりが変わり続ける |
| データの残し方 | 過去の記録を探す場面がほとんどない | 過去の受注や実績を検索したい、誰が直したかを残したい |
右の列に当てはまる項目が多いほど、作り直しを考える時期に来ています。ただし、二つに一つで決める必要はありません。今日の業務を止めないために当面は延命し、その間に作り直しの準備を進める、という組み合わせが現実的です。その場合は「いつまで延命するか」を最初に決めておきます。期限を決めない延命は、次の担当者への先送りになりがちです。延命するときに、最低限やっておくことは次のとおりです。
- ・ファイルの置き場所やシート名など、変わりやすい値を1枚の設定用シートにまとめ、中身を触らずに書き換えられるようにする
- ・直すたびに、直す前の版を日付付きで残す
- ・社内で少なくとも2人がボタンを押し、結果を確かめられる状態にする
- ・外の人に修正を頼むときは、どこをなぜ直したかの説明を書面でもらう
6. 作り直すときに、先に社内で決めておくこと
作り直しは、今のマクロをそのまま別の道具に写すことではありません。マクロは、手作業を少しずつ自動にしてきた積み重ねなので、貼り付けや保存のような「つなぎの作業」が業務の中に残っています。作り直すなら、その前提ごと見直します。たとえば、受注から出荷指示、月末集計までを複数のマクロでつないでいる場合、作り直した後の姿は次のように変わります。
- 受注のデータを別のファイルから手で貼り付けてから、ボタンを押す
- できたファイルに日付を付けて、共有フォルダに保存する
- 同じファイルを誰かが開いていると、閉じるまで待つ
- 結果がおかしいと、作った人に電話して聞く
- 月末に担当者が集計マクロを回し、数字を手で確かめる
- 受注は入力画面で1回だけ入れ、出荷指示も集計も同じデータから出る
- 過去の受注や実績は、画面で検索して呼び出す
- 複数の人が同時に入力でき、待ち時間がなくなる
- 誰がいつ何を直したかが記録に残る
- 月末の集計は画面で確認するだけになる
作り直しを外部に頼む場合も、社内で作る場合も、始める前に次のことを決めておくと、途中で話がぶれません。
- ・範囲:マクロ1本ずつではなく、受注から出荷まで、日報から工数集計まで、のように業務のひと続きで決める
- ・業務の決まり:前の章で書き出した、マクロに埋まっていた決まりの一覧を渡す
- ・切り替えの時期:月末、決算、繁忙期を避ける
- ・新旧を並べて動かす期間:同じデータで新旧の結果が一致するかを、月末をまたいで確かめる
- ・作った後の面倒を見る人:直したい所が出たときに誰に頼むか、社内の窓口を誰にするか
費用の面では、補助金を使える場合があります。業務に合わせてつくるシステムは、中小企業省力化投資補助金(一般型)の対象になるものがあり、第8回は2026年9月18日に受付が始まっていて、締切は事務局の発表を確認する必要があります。労働生産性と賃金を上げる事業計画をつくることが要件で、導入後に目標の報告も求められます。既製のソフトやクラウドサービスを入れる場合は、デジタル化・AI導入補助金(通常枠)が事務局に登録されたツールを対象にしていますが、1次締切の2026年9月29日は過ぎており、2次以降は事務局の発表を待つことになります。
7. 来週から社内で始められる5つの作業
ここまでの内容は、専門の知識が無くても、総務や事務の責任者が段取りを組めば進められます。まだ誰も退職していない会社ほど、早く始めるほど楽になります。最初の一週間でやることを並べます。
- ・部署ごとに「ボタンを押して終わらせている作業」を聞き取り、マクロ入りファイルの一覧を作る
- ・一覧のうち、作った人がひとりしかいない、または作った人がもういないものに印を付ける
- ・印の付いたファイルの原本をコピーして、日付付きで別の場所に保管する
- ・月末や年1回しか使わない処理を、予定表に書き込んでおく
- ・印の付いたものから順に、前の章の表を1本ずつ埋めていく
表が埋まってくると、延命で十分なもの、作り直しを考えるもの、もう使っていないので止めてよいものが自然に分かれてきます。使っていないマクロが見つかるのも、この作業の収穫の一つです。判断に迷うものは、表と録画を手元にそろえたうえで、社内の詳しい人や外部の相談先に見てもらうと、話が早く進みます。
